夏期講習が終わったと言えばこの調査!今年も、2017年の全国の高校入試国語出典本を調査してみました。
参考:
2016年度→2016年高校入試国語出典本を調査してみた結果。この本は読んでおけ!
2015年度→2015年高校入試国語出典本を調査しました。読んでおくべき本はコレ!
2017年度の高校入試で最も出典が多かった本
小説編
蓮見恭子『襷を、君に。』
→茨城県、三重県、和歌山県、山口県、長崎県が出題
去年も神奈川県を含む5つの県で「春や春」が出題されましたが、今年も5つの県で「襷を、君に。」が小説問題の出典となりました。
私はこの本を読んだことがありませんが、Amazonの紹介によると、
熱くて、泣ける! 疾走する女子高生たちの絆を描いた、青春駅伝小説!
とのことです。2014年度の幕が上がる、2015年度のクラスメイツ、2016年度の春や春に続き、2017年度もまた、女子高生たちが部活動を通して成長する爽やか青春小説が一番人気でした。
公立高校入試の国語の作問者は本当に大好きですよね、この女子高生爽やか部活青春物語のパターン。「襷を、君に。」以外にも、公立高校入試には部活をテーマにした小説がよく出題されます。
他にもまだまだ出題されている部活小説!
2017年度の入試問題(公立高校)で、「襷を、君に。」以外の部活をテーマにした小説が出題された県を調査してみました。
- 「園芸少年」魚住直子(青森県)…園芸部
- 「白線と一歩」武田綾乃(埼玉県)…放送部
- 「タスキメシ」額賀澪(千葉)…陸上部
- 「うたうとは小さないのちひろいあげ」村上しいこ(福井)…合唱部
- 「アレグロ・ラガッツァ」あさのあつこ(兵庫)…吹奏楽部
- 「駅伝ランナー 」佐藤いつ子(島根)…駅伝チーム
- 「ピンチランナー『雲は湧き、光あふれて』より」須賀しのぶ(佐賀)…野球部
- 「名もなき風たち サッカーボーイズU-16」はらだみずき(鹿児島)…サッカー部
これらに「襷を、君に。」の5県を合わせると、13県にも及びます。47都道府県中13県ということは、約4つに1つの公立入試問題には、部活動がテーマの小説が扱われているということです。
部活がテーマの小説は、内容がに思想の偏りがなく、中学生の年代と生活に応じた思考を促す内容であることや、表現が比較的容易で、中にこめられた心情が簡単な言葉と分かりやすい文章構造とによって表されているという要素から、2017年に限らず毎年たくさんの都道府県で出題されています。
入試に出やすいから、もしかしたら読んだものが出るかもしれないからという意味ではなく、中学生に応じた「読み物」としても、部活モノの小説は比較的読みやすく、表現や語彙の面でも学ぶところが多いので、一度読んでみると良いかもしれません。
名古屋市立図書館が、最新の部活小説をリスト化してくれています。
参考:https://www.library.city.nagoya.jp/img/oshirase/adult2017/yamada_201707_2_1.pdf
普段はあまり読書に興味がない中学生でも、自分の部活と同じテーマの部活小説なら、舞台背景の理解も感情移入もしやすい分、スラスラと読めるでしょう。秋の夜長に読んでみては?
論説文編
稲垣栄洋『植物はなぜ動かないのか』
→石川県、滋賀県、愛媛県、熊本県で出題
今年も論説の1位はちくまプリマー新書からでした。ちなみにこの本、うちの塾の本棚にも昨年からちゃんとあります。残念ながら神奈川県では出題されなかったけど。
2016年の国語の出典調査記事でも書いたけれど、高校入試にはちくまプリマー新書の論説文が本当によく扱われます。今年もこの「植物はなぜ動かないのか」以外にも、
- 「ふるさとを元気にする仕事 (ちくまプリマー新書)」山崎亮(山梨)
- 「だれが幸運をつかむのか: 昔話に描かれた「贈与」の秘密 (ちくまプリマー新書)」山泰幸(大阪)
- 「〈自分らしさ〉って何だろう?: 自分と向き合う心理学 (ちくまプリマー新書)」榎本博明(島根)…2016年度の神奈川でも出題
以上7府県の論説が、ちくまプリマー新書からの出題でした。ちくまプリマーの新書は、チェックしておいた方がよさそうですね。
(参考)ちくまプリマー新書一覧:http://www.chikumashobo.co.jp/search/result?k=402
ちくまプリマー新書からの出題ではありませんが、私個人としてめちゃくちゃ気になった論説文が、京都と埼玉で出題された「大人になるためのリベラルアーツ」です。
出版社を調べたら東京大学出版なんですね。もう目次を見ただけで、絶対面白いだろうということがわかる内容です。
第1回 コピペは不正か
第2回 グローバル人材は本当に必要か
第3回 福島原発事故は日本固有の問題か
第4回 芸術作品に客観的価値はあるか
第5回 代理母出産は許されるか
第6回 飢えた子どもを前に文学は役に立つか
第7回 真理は1つか
第8回 国民はすべてを知る権利があるか
第9回 学問は社会にたいして責任を負わねばならないか
第10回 絶対に人を殺してはいけないか
番外篇 議論によって合意に達することは可能か
最終回 差異を乗り越えることは可能か
近いうちに塾の本棚に置いておきます。塾生はチェックしてみてね。
出典本は読書の指南役となる
高校入試の出典本は、中学生の読書の指南役となります。もちろん入試問題の出典なので、どうしても堅い文章というか、無難な内容が多くなってしまったり、また流行りの小説ではなかったりしますが、それでもやはり良書が多いのは事実です。
また、論説文に至っては、出典元の本を多く読むと、よく出題されるジャンルの基本的な概念や内容がわかります。高校入試の論説文の内容は、ほぼ「言語・文化系」、「哲学・思考系」、「科学系」、「読書・芸術系」、「経済・社会系」の5つに分類されます。特に多いのは、「言語・文化系」、「哲学・思考系」、「科学系」の3つです。
特に「哲学・思考系」は、それらの考え方や世界に触れたことのない中学生には、何が書いてあるのかさっぱりわからず、一生懸命読んでも全く内容が頭に入ってこないということはよくあります。初めて読む文章でも、そのジャンルの内容を読んだことがあり、基本的な概念がわかっているのとわかっていないのでは、読みやすさと取っ付きやすさがまるで変わります。
以上の理由から、多くの中学生に積極的に出典本にふれて欲しいという意味で、毎年高校入試の出典本調査をしているのです。