2015年高校入試国語出典本を調査しました。読んでおくべき本はコレ!

2015年9月4日

2015年度の全国高校入試国語の読解問題の出典を調べてみました。全部と言っても、全国入試問題集正解に掲載されている47都道府県の公立高校、国立高校、一部の私立のみですが。

ご存知の方も多いと思いますが、高校入試では、同じ年で結構出典元の本がかぶったりします。世の中にこんなに本がありふれているのにも関わらず出典元がかぶってしまう理由として、一番は「中学3年生が無理なく読める内容であること」という縛りがあるからだと推測できます。一部の小説やジュニア新書を除き、ほとんどの本は中学生が無理なく読めるという前提では書かれていません。一般向けに書かれているものが多い中、中3レベルで読みこなすことができる内容・レベルの本は限られています。しかも、入試問題にするからには、ある程度論理的に書かれていなければならないことを付け加えると、だいぶ絞られてくる。だからかぶりが多いということになります。

頻出の出典本を読んでおくメリット

意見が分かれるところだと思いますが、私は頻出の出典本は積極的に読むべきだという考えです。もちろん、読んだことのある本が運良く出典として入試に出題されると有利だから、という理由ではありません。高校入試は出典元がかぶりやすいとは言え、読んだ本がたまたま入試に出るなんて、それこそ奇跡的な確率です。しかも、国語の入試は、初見の文章を読んで解くことが前提です。「この本を読んだことがありますか。ありませんか。」という勝負ではありません。読んだことがあろうがなかろうが、50分の間で文章を読み、論理的に考えて問題を解く力をつけることが、国語の勉強です。

それでも、私が出典元の本を読むことをお勧めする理由は次の2つからです。

中学生の読書の指南役となる

大人であれば読む本を選ぶのにそれほど苦労しませんが、中学生の本選びはなかなか苦労します。面白そうだと思って読んでみると、内容や言葉が難解すぎてサッパリ意味が分からないということが多々あります。この逆の現象として、自発的に興味を持てないような内容でも、中学生のうちに読んでおくべき内容の本というのもたくさんあります。

高校入試の出典は、いわば中学生の読書の指南役だと思うのです。出典元をよく調べてみると、中には絶対中学生レベルじゃないだろコレというものもありますが、やはり良書が多いのは事実です。

基本的な概念や内容がわかるようになる

高校入試の論説文の内容は、ほぼ「言語・文化系」、「哲学・思考系」、「科学系」、「読書系」、「芸術系」の5つに分類されます。特に多いのは、「言語・文化系」、「哲学・思考系」、「科学系」の3つです。

出典元の本を多く読むと、よく出題されるジャンルの基本的な概念や内容がわかります。特に「哲学・思考系」は、それらの考え方や世界に触れたことのない中学生には、何が書いてあるのかさっぱりわからず、一生懸命読んでも全く内容が頭に入ってこないということはよくあります。初めて読む文章でも、そのジャンルの内容を読んだことがあり、基本的な概念がわかっているのとわかっていないのでは、読みやすさと取っ付きやすさがまるで変わります。

2015年度頻出出典

2015年の入試にもっともよく出た本(論説文編)

高知県、東京都立進学指導重点校2校、国立高等専門学校、久留米大付属が出題

中村桂子著 「科学者が人間であること (岩波新書)

お恥ずかしながら、私はこの本を読んだことがなかったのですが、問題を読んでみる限り、科学者とて人間であり、自然の中に生きる生き物であること、東日本大震災の原発事故を受けて科学への盲信の危うさをを問うような内容で、中学生の読み物としてピッタリだと思います。

2015年の入試にもっともよく出た本(小説編)

北海道、広島県、熊本県、宮崎県が出題
森絵都著 「クラスメイツ 〈前期〉

クラスメイツ<前期>は2014年の5月に単行本の新刊で発売されました。入試問題の原案は、だいたい夏前までに作成されるようなので、6月までに出るような新刊は出典としてかぶりやすいという傾向があります。また、このクラスメイツは、ごく一般的な24人の中学生のそれぞれのストーリーを書いた本なので、中学生にも親しみやすく、公立高校の小説文としてはもってこいの作品だったのでしょう。

この本は読んだことがなくても、小説が好きな中学生なら森絵都さんという作家さんのことは知っている人が多いと思います。中高生に人気の小説家の一人ですからね。この方は、イマドキの中高生の心情を書くのが非常に上手だと思います。今年の国立高専の小説で、「架空の球を追う (文春文庫)」が出題されていましたが、これも森絵都さんの著書です。

森絵都さんの著書の中で、中高生に一番ウケているものといえば「カラフル (文春文庫)」でしょう。読書に馴染みのない中高生でも、スラスラと読めると思います。

他の出典の中でのお勧めの本

科学系論説文

今年の論説は、「科学者が人間であること」をはじめ、科学系の内容が全国でたくさん出題されていました。高校入試でよく見かけるのは池内了さんの著書。今年も、兵庫県・佐賀県や複数の私立高校で池内了さんの著書が出典となっていました。池内了さんの著書のなかでは、「科学の考え方・学び方 (岩波ジュニア新書)」が入門編としてはお勧めです。今年の佐賀県の論説文にもなりました。

他に科学系と言えば、日高敏隆さんの本もよく出典として出題されます。日高さんの中で是非中学生に読んでもらいたいのは、「世界を、こんなふうに見てごらん (集英社文庫)」。残念ながら今年の入試での出典はありませんでした(滋賀県の論説文の出典は日高さんの「昆虫学ってなに?」からでした)が、語り口調の易しい文体で書かれているので、中1生から、国語の力があれば小学校高学年からでも読めるでしょう。うちの塾の文庫コーナーにもあります。

他にも今年出典こそありませんでしたが、福岡伸一さんの本もお勧めです。中学生に読みやすいのは、「ルリボシカミキリの青―福岡ハカセができるまで (文春文庫)」かな。うちの塾の文庫コーナーにもあります。

哲学・思考系

冒頭でも述べたように、哲学・思考系が論説文で出題されると、やや厄介です。国語力がなく、こういうジャンルの本を読んだことがない子は、特に哲学系の論説が出ると苦戦すると思います。

哲学系では、やはり池田晶子さんの本がよく出題されます。今年も高知県で「14歳の君へ―どう考えどう生きるか」、國學院で「14歳からの哲学 考えるための教科書」からの出題がありました。どちらも、哲学系の本を初めて読む人向けなので、一度読んでおくことを強くお勧めします。

思考系だと、外山滋比古さんの著書からもよく出題されます。今年は岩手県で「考えるとはどういうことか」、共立女子で「知的創造のヒント」からの出題がありました。外山さんの本はたくさんお勧めしたいものがありますが、一番はロングセラーになっている「思考の整理学 (ちくま文庫)」です。普段モノを考えたり勉強したりするときのヒントにもなります。うちの塾にもおいています。

小説

小説では、これまた本好きの中高生なら知っている人が多い辻村深月さんの著書が多く出典として出題されました。愛知県と筑波大学附属高校で「サクラ咲く (BOOK WITH YOU)」におさめられている短編小説「世界で一番美しい宝石」が、岡山県と大分県で「家族シアター」の中の「1992年の秋空」が出題されています。

出典元はすべて短編ですが、長編小説も面白いです。私が個人的に好きな彼女の長編小説は、「ツナグ (新潮文庫)」。長編だけども短編集のようなものなので、辻村さん入門編としてはお勧めです。

あと、私が全く知らなかった作家さんで、原田マハさんの小説がかなり出典元となっていました。東京都・千葉県・福井県・私立東海高校です。そのうち、お隣同士の東京都と千葉県は、全く同じ小説からの出題でした。これを機に、チェックしてみようと思っています。

まとめ

本についてのブログを書くと、勝手に熱くなってしまい、それ故無駄に長くなってしまうのが私の悪い癖です。スミマセン。ただ、本はやっぱり良いものです。心と頭の栄養になります。時間と余裕があれば、小学生や中学生対象に、1ヶ月1回位の頻度で「読書会」のようなものをやりたいと常々思っています。毎月課題図書を一冊決めて、それを各自読んでくる。読書会の時に、その課題図書についての理解を深めるために、話し合ったり講義をしたりする。そんな読書会をやるのが密かな夢です。

大人向けの読書会はたくさんありますが、小中学生向けのものはなかなかありません。でも、小中学生こそ読書が必要だと思うんだけどな。