1科目に10000字を超える文字数の入試問題!その狙いと攻略法は?

2015年4月22日

先日、某所の2015年度入試分析セミナーに参加してきました。そのセミナーの中でなかなか面白い発見があったので、ブログで共有します。

いきなりですが、ここでクイズです。神奈川県公立高校入試の各科目の入試問題の問題文が、どれくらいの長さ(文字数)になるか分かりますか?問題数と問いのすべての文字数を数えた場合、いったいどれくらいの文字数になるでしょうか。

1.約3,000字
2.約5,000字
3.約10,000字

正解は「3」です。タイトルですでにネタバレしていますよね。スミマセン。

もちろん科目によって差はありますが、例えば国語・理科・社会は1教科あたり軽く1万字を超えているそうです。1万字というと、400字詰めの原稿用紙にビッシリ書いても25枚分にあたります。一般的な文庫本だと、14〜15ページくらいの分量です。そう考えると、結構な文字数を読まなければいけないということになります。

しかも、読書の場合はただ字面を追っているだけで済むのですが、入試となると、1万字の文字数を読んで、その内容を理解しながら問題を考え、解答用紙に答えを書くという作業が加わります。この一連の流れを、50分という制限時間の中で行うのです。

この記事の中でも書きましたが、文章を読み取るスピードが遅いと、与えられた制限時間の多くを問題を読むための時間にさいてしまい、「問題を考える、または解く」ための時間にさける時間が少なくなってしまうという事態になってしまいます。その結果、最後まで問題を解き終わることができず、大きく失点していまいます。文章を読むスピードが遅い子は、国語だけでなく理科や社会の点数も良くないことが多い原因の一つは正にこれでしょう。

他県と比較しても、神奈川は圧倒的に文章量が多い

神奈川県の入試問題の文字数は、他県と比較しても圧倒的に多いのが特徴です。先日のセミナーの中で、他県と入試問題の文字数を比較したデータがあったので抜粋して図にしてみました。

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過去3年間の、神奈川他いくつかの都府県の科目別文字数の表です。濃い赤で表示したところが、今回比較した都府県の中で文字数が最も多いことを示しており、薄い赤の表示が2番目に多いことを示しています。ちなみに、文字数とあまり関係のない数学は省いてあります。

この表からも分かるように、2013年度は英国理社の全ての科目において、神奈川が圧倒的の1位です。文字数の比較的少ない福岡県と比較すると、英語と社会で2.5倍、国語で約3倍、理科で約2倍もの文字数を読まなければいけないことになります。2014年度も、理科のみ東京都が1位でしたが、それでも神奈川は2位、英国社については、相変わらず1位です。

このように、特に神奈川の公立入試に関しては、文章の読み取りスピードの遅い子はかなり不利になってしまうことになります。

文字数の圧力が直接かかる設問構造に

実は、新しい入試に切り替わる前の共通入試時代でも、神奈川県の入試問題は文字数が多い特徴がありました。先ほどの表の2012年度は最後の共通入試が行われた年ですが、国語と社会で1位、英語と理科でも2位の文字量があります。それにもかかわらず、共通入試時代の入試問題は、特に上位層では50分の制限時間内に早々と解き終わり、時間が余ってしょうがないという事態になっていました。文章の読み取りスピードの遅い子でも、余程のことがない限り、制限時間内に解き終わらないということは滅多に起こらなかったのです。

同じように文章量が多いのにも関わらず、なぜ昔の入試では時間内に解き終わり、今の入試では時間内に解き終わらないという不思議な現象が起きているのでしょうか。

それには2つの理由があります。

理由1:選択問題中心の設問構造だと文字数は増える

まず1つ目の理由は、昔の共通入試は記述式の問題はほとんどなく、選択問題中心の設問構造だったからです。選択問題になると、それぞれの選択肢に文章を用意しなければいけない分、必然的に文字数が増えます。

選択問題中心で文字数が多い一方で、昔の入試問題は選択肢をザッと流し読みすれば、自然と答えが浮かび上がって見えてくるほど簡単に正解することができました。また、設問に入る前の問題文(リード文と言います)も昔から長々と書いてありましたが、共通入試時代はリード文をほとんど読まなくても、設問を理解することができたのです。つまり、文字数は多いものの、問題文のほとんどが設問理解に直接的な意味を持たなかったり、選択肢も自然と絞られる設問設計だったので、文字数が多いことがあまり意味を持たない問題構造になっていました。

ところが新しくなった入試問題は違います。今の入試問題は、リード文から図表から何から何まで、隅々まで読んで理解しなければ解けない問題が多くなりました。しかも、設問を解くのに必要となる重要な情報が一カ所に集中しているのではなく、ところどころに散りばめられていたり、憎たらしいほどサラッと書いてあったりして、どの情報が重要で何が必要でないかを自分で吟味しなければいけないような構造をした問題も多く登場するようになりました。

つまり、今の入試問題は、文字数の圧力が受検者に直接かかる設問構造になってきたということです。だから、昔の共通入試時代と変わらない文字数の量でありながら、今の入試問題は時間がかかってしょうがないという入試問題になっているのです。

理由2:パターン化した問題の減少

2つ目の理由は、このブログでも散々書いてきた「パターン化した問題の減少」です。昔の共通入試のように、毎年毎年問題パターンが固定されていれば、問題文を読まなくてもどんな問題かが分かります。本番と同じような問題をパターン演習で山ほどやってきて、どれもどこかで見たことのあるような設問なので、「あぁ、またこれか」という具合に、注意深く設問を読まなくても正解を選ぶことができます。

しかし、新しい入試問題はこのようなパターン化した問題が減少してきました。見たこともないような、これまでに解いたこともないような問題が並ぶので、「あぁ、またこれか」という具合に設問を読み飛ばすことはできません。さらに厄介なことに、一見パターン化したような問題に見える単純な設問でも、ひとひねりもふたひねりもあり、よく図表を観察したり自分で図に表したりしないと解けないような設計になっているのです。これを、よく観察しないで「あぁ、またこれね」とパターンで解こうとすると、見事に不正解になるような仕掛けがいたるところに仕掛けられています(特に理科なんてそれが顕著です)。

求められているのは情報処理・情報分析能力

このように、今の神奈川の入試は、圧倒的な文字数で書かれた文章量を手早く読み、膨大な情報の中から問題を解くために必要な情報を整理し、自分の頭の中にある知識・解法を引っ張りだしてきて、情報と知識を上手く組み合せて解くという入試問題へと変化してきています。昨日の記事にも書きましたが、一昔前と問題のタイプも求められている能力も、全く違うわけです。

ただ、このような入試問題の変化は、とても良い傾向だと考えています。だってそうでしょう。例えば理科の用語の1つである「等速直線運動」なんて言葉、学校を卒業して社会に出てから1度でも使ったことがありますか?動いている物体を見て、「あぁ、あの物体は等速直線運動をしているな」なんてことを思う人がいるとすれば、ちょっとおかしな人だと思います。学校で習ったことなんて、クソの役にも立たないということは、大人であればみんな一度は実感していることです。

でも、今の入試で求められている「情報処理・情報分析能力」というのは、将来どんな仕事に携わるとしても、生きていく上で必ず必要になる能力です。ましては今は情報社会を通り越して情報過多の時代。否が応でも玉石混淆の情報に触れながら日々を生きています。その中で、情報を吟味し、分析して選別し、自分の中にある知識と上手く組み合せながら物事を正しく判断していく力が一層必要な時代です。新しくなった神奈川の入試問題は、このような新しい時代を生きる力を身につけてくださいという、県教委からのメッセージなのでしょう。

じゃあ、どうすれば今の入試問題に対応できる力が身につくの?

ここで綺麗事だけを書いてハイ終わりというのは、私のブログスタイルではありません。次に、じゃあどうすれば今の神奈川県の入試問題に対応できる力がつくのかを考えていきたいと思います。

原理原則を理解しながら、早い段階で知識を身につける

まず絶対に無視できないのが、「知識」の部分です。たしかに、「等速直線運動」などという単語を直接問われる問題は減りました(というよりもう絶滅危惧種です)。でも、等速直線運動が何なのかを知らなければ、当然ながら問題は解けません。理科だけでなく、全ての科目において同じです。中1の段階から(できればもっと早くから)、基本的な知識やパターン化された解法をしっかりと身につけておくことは、今も昔も同じことです。

ただし昔のように、ただ言葉を暗記しておけば良いということはありません。「等速直線運動」とは何なのか。なぜ、どういうときに物体は等速直線運動をするのかという原理原則を、他人に説明できるレベルにまで自分の中に落とし込むことが大切です。この辺は、毎回塾の授業中で話していますね。「ただ丸覚えしても全く意味がない。なぜそうなるのかを説明できるように」と。中1中2の時期に、丸暗記に頼らない原理原則を理解する勉強をすることが非常に重要になります。

この知識の部分を、早い段階から確立しておくこと。そうすると、その知識を問題中にどう生かすのか、問題文の情報とどう組み合せるのかを練習する時間の余裕が生まれます。

いろんな傾向の問題を解く

このブログでもバカの一つ覚えみたいに何度も言っていますが、知識やパターン化された解法を早い段階から身につけた上で、「全国入試問題正解」などの、今の時代を反映した問題を解いて、情報と知識を組み合せて答えにたどり着く練習をするのです。トップ校を目指している人は、特色検査や公立中高一貫校の適性検査の過去問を解くことも、情報と知識を組み合せる良い練習になります。

全国入試問題正解が良いのは、このような情報処理能力を測る入試問題に移行しつつあるのは神奈川県だけではないからです。全国の他の都道府県も、その割合の差はあれども、少しずつ情報処理型の問題に移行しつつある。一方で、そこら辺の市販の問題集や、塾用でも何年にも渡って改訂がなされていないような全くやる気のない入試対策問題集は、このような能力を養成できる設問設計になっていない。だから、全国入試問題正解をやると力が付くのです(もちろん、全てをダラダラ解くのではなく問題を吟味しなければいけませんが)。

全国入試問題正解をやるうちに、問題文中のどこに線を引かなければいけないのか、情報をどのように図にまとめると分かりやすいのかというコツが掴めるようになります。まさに、情報処理の力です。うちの塾はこの手法で結果を残しています。

同時に国語力を鍛える

あと一つ忘れてはならないのは、文章を読むスピードを上げると同時に、文章の内容を素早く理解する力を身につけることです。冒頭にも書きましたが、神奈川県の入試問題は1科目あたり10,000字を超えます。これを読み解くためには、文章を読むスピードは必要不可欠です。

うちの中学部の中でこの力が最も低い中3生に対して、ちくま評論入門 (高校生のための現代思想ベーシック)ちくま小説入門 (高校生のための近現代文学ベーシック)の中から25〜30ページくらいのいくつかの評論文や小説文を読ませてその内容を把握しているかどうかをチェックする問題を、2週に1回くらいのペースで解かせています。一応国語の課題として与えていますが、国語という科目だけに対する目的ではなく、文章把握力向上と読むスピードを上げるという目的です。

まとめ

久しぶりに5000字(これでも入試問題1科の半分!)を超えるほどの長いエントリーになってしまいました。頑張って書いたのですが、たった3行でまとめると、

・神奈川県の高校入試って文字数の圧迫が直接かかる問題になっているよ。
・問われているのは情報処理・情報分析能力だよ。
・だから頑張って対策しようね。

ということになります。だいぶ割愛しましたが。