ご存知の通り、神奈川県の公立高校入試問題は2年前から劇的に難しくなりました。このブログでも何度も書いているように、昔の神奈川とは全く問題のあり方や難易度が変わっています。保護者説明会でも、「お母さんお父さんの頃とは全く違いますので、どうか昔を引き摺らないでください。ア・テストがー、内申がー、部活動や生徒会の役職がーとか言わないでください。」とお願いしましたね。
ところが、入試は変わっても、受験生・保護者の方・学校・厄介なことに学習塾も含め、神奈川県民全体の意識はまだまだ変わっていません。「塾は中3からでも十分間に合う」、「やっぱり定期テストや内申が大切よね」、「過去問を解いておけば何とかなるんじゃないの」、昔の古き良き時代の入試制度の感覚を引き摺っている。こういう症状を“神奈川病”と呼びます(勝手に呼ぶことにします)。
神奈川病の症状
症状1:塾は中3からでも十分間に合う?
確かに新しい入試制度になる前の共通入試の頃は、塾は部活動を引退した後の中3からでも十分間に合いました。なんせ、入試に出る問題パターンが毎年同じだったワケですから、よく出る問題パターンだけピンポイントで演習しまくれば、そんなに実力はなくても50点満点中40点は軽く超えることができたからです。ある程度の基礎力があり、なおかつ要領よくやれば、それこそ全科目習得するのに3ヶ月もかからなかったほどです。そんな時代を引き摺っているのか、今も中3から塾に行けば間に合うと思っている人が多い風潮があります。特に田舎の方に行けば行くほど、そういう傾向が強い気がします(気のせいかもしれませんが)。
でも、ハッキリ言いますが、今の神奈川の入試問題レベルだとキツいです。このブログでも何度も書いていますが、今は入試の難化に加え、脱パターン化も進んでいます。基礎的な知識の下地をきちんと構築した上で、色々な問題に対応できる考え方や問題の解き方を積み重ねていかなければいけません。昔のように、よく出る問題パターンだけピンポイントで演習しまくればどうにでもなる問題ではないのです。
特に、知識や基礎力がガタガタの状態では、中3から塾に入っても、入試までに間に合うかどうかはかなり微妙になってきます。とりあえずはパターン演習でどうにかなるところだけをやったとしても、トップ校あたりに合格するにはかなり厳しいです。もちろん、高校を選ばないのなら話は別ですが、地域のトップ校を狙っているのなら、早い段階から基礎的な知識や思考の下地を構築し、中3生で早々に入試対策を始める必要があります。
症状2:やっぱり定期テストや内申が大切よね?
上位校ほど内申があっても不合格になる現実
今でももちろん内申は大切です。内申はお金と同じで、ないと困ることはあっても、あって困ることはありません。ただ、ご存知の通り、上位校ほど合否に関わる内申の割合がだんだん削られ、学力試験の割合が増えつつあります。
なぜか。答えは簡単で、「学力試験で十分差が付くようになったから」です。昔の神奈川県の簡単な入試問題なら、特に上位層ほど差が付くことはありませんでした。まだ独自入試もなかったころ、上位層はほぼ満点近くの点数を取り、ほとんど差なんて生まれなかったのです。独自入試の頃だって、理社はまだ簡単な共通入試が採用されていたので、英数国があまり取れなくとも「理社で満点近くとって、内申と合わせて逃げ切る作戦」が可能だったワケです(実際私もこの作戦をどれだけ使ったことか)。
しかし入試が難化してからは、上位校ほど学力検査で面白いように差がついてきています。逆に、中堅層より下の学校は、難しすぎてみんな仲良く点数が取れないので、学力検査で差がつかないようになってきました。つまり、「上位校ほど内申に頼れず、中堅層以下は内申頼みの入試」になってきたということです。
実際、上位校ほど、「これなら合格間違い無し」と太鼓判を押される程のめちゃくちゃ高い内申を持っている生徒でもいとも簡単に不合格になってしまう現象が頻繁に起こっています。そもそも、内申が高いだけで合格間違い無しと思っちゃうところが、“神奈川病”にかかってしまっているということです。
定期テストも変わってきているという現実
学校の定期テストの様子がだんだん変わってきているのにお気付きの方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。県の公立高校入試改革を受けてから、学校の定期テストの様子も少しずつ変化してきています。
その変化とはズバリ、実力問題が頻繁に出題されるようになっているのです。一昔前までであれば、定期テストは学校で習ったことしか出題されないのが、ある種のお約束みたいなところがあったのですが、今は違います。特に意識が高い先生ほど、入試問題さながらの実力問題をバンバン出題してきたり、平気で範囲外の復習問題の割合を多く盛り込んだ定期テストを作成されています。
私の感覚だと、教科書内容:実力問題の比率が、だいたい6:4〜7:3くらいでしょうか。教育意識の高い地域の学校では、5:5あるいは4:6というように、実力問題が教科書内容の割合を上回っているというところもあるようです(残念ながらこの地域の界隈の学校ではありません)。
私個人の意見では、このような実力問題の割合が増える傾向は良いことだと思います。ただ、ここで問題になるのは、しっかりと普段から実力を付けていないと定期テストすら取れなくなるということです。「○○中定期テスト対策」というように、塾の先生が学校の授業のノートやプリントをガンガン調べて対策をしている塾もまだまだありますが、正直時代遅れです。生徒の代わりに学校の教科書内容の対策をしてやるよりも、塾はしっかりと実力を付けてやり、定期テストの実力問題でも入試でも対応できる場所となるのが、今の時代にあった塾のあるべき姿なのだと思いますが、いかがでしょう。
症状3:過去問を解いておけばどうにかなるんじゃないの?
なりません。これは断言します。どうにもなりません。というより、過去問だけでどうにかなるような入試問題を、県教委はもう作ってこないと思います。
ご存知の通り、2020年度から大学入試が変わります。ちょうど今の中1生が大学受験をする頃からです。昔の受験勉強と言えば、高校受験も大学受験も、過去問を何年分もガシガシと解いて、出題パターンを習得するというスタイルでした。ところが、2020年度から、センター試験も廃止されるし、「到達度テスト」なるものも登場する。過去問も何も一切ないゼロの状態にリセットされます。
文科省が大学入試を大きく改革する意図の一つが、過去問の出題パターン演習だけでどうにかなってしまうような入試制度のあり方を変えるということです。パターン演習を積み重ねた人材よりも、学んだ知識を問題の中でどう生かすかという、情報処理能力、発想力中心の人材を養成したいのでしょう。
神奈川県の難化した入試のスタイルは、まさに文科省が意図している「情報処理能力」を重視しているものになっています。2020年の大学入試改革の前に、時代の最先端を走ろうとしているのでしょう。そんな県教委が、今更時代に逆行するとはとても考えられません。
まとめ
時代は変わりました。しかし、長年に渡って蔓延ってしまった悪しき神奈川病はなかなか収束する様子がありません。さらに厄介なことは、大人ほど神奈川病を引き摺っているということです。保護者の方のみならず、受験請負人であるはずの塾講師も、その経験が長いことが悪くはたらいて、いつまでも神奈川病を引き摺っている。いつまでも昔のやり方でどうにかなるだろうと思い込んでしまっている。こんなだから、「神奈川の理科は難しすぎる。もっと簡単にならないのか。」とか、塾の先生が平気な顔で言ってしまうのでしょう。奈良出身の私にとって、神奈川病は実に奇妙な病気に見えます。
いつまでも神奈川病を引き摺っていては、完全に今の時代の学力観、今の時代の入試に遅れをとってしまいます。いち早く神奈川病から抜け出し、新しい時代の学力観や入試に対応できるように変化することが、今の神奈川県全体にとって必要なことだと思います。