勉強には基礎が大切だ」という言葉を、まったく聞いたことない受験生なんていない。それくらい基礎が大切だということは全受験生に浸透している事柄だ。
にも関わらず、多くの受験生が基礎を軽視してしまうのはなぜか。
原因の一つに考えられるのは、指導者と受験生とで「基礎が身についている状態」の捉え方に齟齬が生じてしまっているということだ。
今回は指導者側が考える基礎の身につけ方について書いていこうと思う。
基礎できる≠基礎が身についている
まず、「基礎ができる」と、「基礎が身に付いている」の2つは似て非なるものである。受験生の多くが、まずこの点を勘違いしている。「基礎ができる」だけの状態で、自分は「基礎が身についている」と思ってしまっている受験生が実に多い。
小学校で習ったかけ算の基礎の「九九」を例にしてみよう。
3×6の計算を、「サブロクジュウハチ」と瞬時に言えるA君と、「サブロク、ん?えーっとなんだっけ、3が6個分だからえーっとえーっと…あ、そうか18だ!」と時間がかかるB君がいるとする。両者とも3×6=18は導き出せているので、この基礎問題には正解したことになる。
では、123×456のような筆算になるとどうだろうか。サブロクジュウハチの答えを瞬時に出すことができないB君が、果たして123×456がミスなくできるだろうか。
基礎ができる=基礎を自由自在に使えるまで落とし込んだ状態
これが、「基礎ができる」と「基礎が身についている」の違いである。
基礎というのは、ただわかっている、ただできるレベルでは、使い物にならない。九九の例のように、瞬時に答えが浮かぶレベルにないと、それよりも発展的な問題でその基礎を活用することはできない。
基礎を疎かにする受験生の多くは、ここを勘違いしている。「基礎ができる」状態をもって、自分は基礎は大丈夫と思ってしまっている。ただ分かっているだけで身についている状態までになっていないから、実践問題の中で基礎を活用することができない。
英語なら、基礎となる英文法を自由自在に活用できるまでに落とし込まないと読解問題は読めないし、数学の図形問題なら、基本的な相似や三平方の定理をストレスなく自由自在に扱えるレベルにまでに達していないと、難解な問題はもちろん解けない。
指導者にとって「基礎をやりなさい」と言うのは、「基礎がやっとの思いでできる状態」を指しているわけではなく、「基礎をノンストレスで自由自在に使えるまで落とし込む状態」を指しているのだ。
基礎の定着は、基礎的な問題だけでは確認できない
「だったら入試問題なんて難しい問題をやらないで、基礎的な問題集を何回も繰り返し勉強しておけばいいじゃないか」と思う人もいるだろうが、それも少し違う。
もう一度九九の例を思い出してみよう。サブロクジュウハチが瞬時に出てくるA君も、時間をかけてようやくわかるB君も、九九のドリルならどちらも正解できる。B君は、ドリルが正解できたのだから、「自分は基礎が身についていない」なんて思いもしないだろう。でも、123×456のような筆算のドリルになると解けなくなる。その時になってはじめて「もっと九九の練習をしなければいけない」と気づくことができるのだ。
基礎が身についているかどうかは、基礎自体を問う問題ではなく、その基礎を実際に活用する問題、つまり応用問題を解いてみないと分からない。また、応用問題を解くことではじめて、身につけた基礎の活用方法が見えてくる。
基礎を身につける方法
じゃあ、基礎を身につけるために、結局基礎をやればいいのか。応用問題をやればいいのか。
当然、どちらも必要だ。
まずはきちんと基礎を理解し、そのあと基礎的な問題集を不自由なく解けるようにする。そのあとで、実践的な問題を解いて基礎の活用の仕方を学び、基礎が不自由なく活用できているかどうかチェックする。
実践的な問題になると、解けたとしても時間がかかり過ぎたり間違うことが多い場合は、もう一度基礎問題集に戻り取り組んでみよう。最初に基礎問題集に取り組んだ時とは基礎の見え方が異なるはずだ。実践で基礎の活用を学んだ後に解くと、基礎の特にどこがポイントなのか、自分にどんなスキルが足りないのか、より理解しながら基礎問題集に取り組めるようになる。
それができたら、また実践問題を解きながら、活用できるかどうかをチェックしよう。
つまり、「基礎→実践→基礎→実践」の順番で取り組みながら実践で使える基礎へと強化していくことが、基礎を身につける方法だ。
ところが、基礎を軽視している受験生は、「基礎→実践→実践→実践・・・」と、基礎をちょろっとやった後にとにかく実践を繰り返す。当然、基礎が身についていないまま実践問題を何度繰り返してもほとんど効果はない。でも受験生には「自分は基礎ができていない」という認識はない。だって基礎的な問題集はもう一通りやってあるのだから。
それが「基礎」に対して認識が違うことで生じる落とし穴なのだ。
まとめ
基礎は、自由自在に活用できるレベルにまで落とし込んではじめて、その科目の学力の土台となる。そして九九を忘れることはないように、そこまで落とし込まれた基礎は、そう簡単には傾くことはない。
最後にもう一度言う。
「基礎を大切にしよう」
このnoteを読む前と後で、この言葉が持つ意味合いがあなたの中で変わっていることを祈る。