分厚くなった教科書を、子どもはいつどこで学ぶのか

2012年8月6日

指導要領の改訂に伴い、今年度から一斉に中学校の教科書が変わった。今まで散々「学習項目を減らします。詰め込み教育をやめ、総合学習の時間を多くします。」と言っていたのは何だったんだろうと思うくらい、新しい教科書はグンと分厚くなり、発展的内容も登場し、今までよりも格段に難しくなっている。余談ですが、教科書の全面改訂はかなりの塾屋泣かせです。今まで作りためてきた教科書準拠の教材が、一瞬でパーになってしまいますから(;_;)

で、新しい教科書を扱い始めてから1学期が終わったわけだが、7月までの中学校の様子を見ていると、ひとつの疑問が浮上してくる。「いったい子どもたちは、新しくなった教科書をいつ学ぶのだろうか」ということだ。

理科の45%増を筆頭に、教科書のページ数が全部で33%も増えているのだが、学校の授業の進度は昨年とほぼ変わっていないどころか、教科や学年によっては昨年よりも授業の進度が遅いところもあるほどだ。普通に考えれば、教科書が33%も増えているのだから、授業も3割増し程度にスピードアップしていかないと、学年が終わるまでに教科書が全部終わらないということになる。しかし、塾生が通う3中学の様子を見ていても、今のところ3割増しでカリキュラムを進めている学年、教科はほぼゼロに等しい。いったい増えた分の内容を、子どもたちはいつ学ぶことになるのだろう。

また、定期テストの難易度や内容も殆ど変化が見られないのも不思議な点のうちの1つ。折角教科書が発展的な内容まで扱っているのに、その部分がテストに反映されていなかったり、場合によっては授業で飛ばされていたりしている教科もある。これでは、何のために教科書が改訂されたのかが分からないし、教科書が分厚くなった分通学バッグが重くなったお蔭で、頭脳ではなく筋肉が鍛えられる。

教科書だけを増やしたところで、授業数も増えないし、かといって習熟度別クラスを増やして効率的に学ぶこともしないのであれば、結局消化不良を起こすだけということは目に見えている。子どもの学力を上げるために教科書を分厚くした結果、先生も生徒もちゃんと消化できずに逆にバカが増えて、筋肉だけがムキムキな生徒が増えましたじゃ、笑い話にもならない。

学校で十分に消化しないままになっても、入試の学力試験にはきちんと分厚くなった分の内容が反映される。じゃあ、分厚くなった分の内容は子どもはいつ、どこで学ぶのか。やはり現状は塾しかないのだ。学校の先生方が『敵』とみなしている塾が、学校の消化不良の尻拭いをするしかないのですよ。

その結果、塾に行っている子は、文科省の策略通りにゆとり教育から脱却し高い学力が身に付くのだが、塾に行っていない子は、消化不良の分を学ぶ機会がなく、高い学力どころかゆとり教育の頃よりも学力が低下することになりかねない。現状のままだと、ますます教育格差が大きくなっていくだろう。

教科書を薄くしたから子どもがバカになった。じゃあまた厚くしたら子どもは賢くなるだろうっていうことだけでは問題は解決しないハズ。厚くなったり難しくなった部分を子どもに理解させる時間をどう作るか、時間が作れないのなら、どのように工夫するかという議論こそ、まず最初になされるべきこと。それができないままじゃ、塾に行っていない子は、教科書すら十分に学ぶことができません。