前回の記事で「意外と知らない私立併願入試制度をズバッと解説2024」で併願私立について解説をしましたが、併願私立を選ぶとき、軽い気持ちで「大学付属は大学受験をしなくてもいいのでお得だから」と大学付属を選ぶ生徒がいます。
確かに付属校は系列大学への内部進学がしやすいという側面もありますが、それゆえデメリットもあります。また、一口に付属校と言っても、学校によってその特徴も様々です。
そこで今回は、神奈川県の付属校15校について、2024年の系列大学の内部進学率を見ながら、それぞれの性質やメリットデメリットを考えてみます。
15の神奈川県内付属校
ここでは、通常の高校入試を実施していて、学校名に「大学」という冠がついている高校を考えることにします。神奈川県内には、このようなタイプの付属校が全部で15校あります。
麻布大学附属、鎌倉女子大学高、関東学院六浦、慶應義塾高、相模女子大学高、湘南工科大学附属、中央大学附属横浜、鶴見大学附属、東海大学付属相模、日本女子大学附属、日本大学高、日本大学藤沢、法政大学国際、法政大学第二、横浜商科大学高
これら15校を、系列大学への内部進学率から次の3つのタイプに分類することにします。
完全付属校
完全付属校とは、系列大学への内部進学率が100%に近い高校を指します。神奈川県内であれば、慶應義塾高校が完全付属校にあたります。
2023年度卒業生数670名。うち慶應義塾大学に推薦された者656名。(その他の進路を選んだ者は14名)
ー慶應義塾大学高校ウェブサイトより
2023年度の慶應義塾高校の慶應大への内部進学率は98%。県外にもある早慶の付属校のほとんどは、慶應義塾高のように完全付属校ということができます。
慶應のような完全付属校のメリットは、入ってしまえば慶應大学にほぼ確実に入学できるということです。ただ、だからと言って簡単というわけではなく、日々の授業のレベルはもちろん高いので、気軽に入学すると大変な目に合います(気軽に入学できる学校ではありませんが)。
準付属校
系列大学への内部進学率が70%〜90%にあたる高校を、準付属校とします。神奈川県内の15校の中であれば、法政系、中央大学附属横浜、日本女子大学附属、東海大学附属相模がこれにあたります。
下の表は、2023年度卒業生の系列大への内部進学率と、国公立・早慶上理の合格者の割合です。
学校名 | 内部進学率 | 国公立 | 早慶上理 |
---|---|---|---|
法政大学第二 | 87.1% | 0.6% | 5.2% |
東海大学付属相模 | 76.2% | 0.0% | 0.4% |
法政大学国際 | 75.2% | 1.9% | 11.3% |
日本女子大学附属 | 74.8% | 1.6% | 14.2% |
中央大学附属横浜 | 70.1% | 15.9% | 24.3% |
基本的に、系列大学の偏差値が下がるほど系列大学への内部進学率は下がる傾向にあります。その中で、東海大学相模の内部進学率はかなりの高さです。系列大学の東海大学が文系〜理系まで幅広い学部のある総合大学であることが理由の一つでしょう。
一方で、公立上位校の併願校としても人気の高い中央大学附属ですが、中央大の理系の学部の種類が限られていることから、内部進学率は70%程度とそこまで高くありません。
準付属校のメリットデメリット
準付属校のメリットは、高校である程度の成績を修めていれば、系列大学へ内部進学することができることでしょう。そのため、大学入試を気にすることなく、高校3年間を部活動や習い事、海外留学等に思いきり打ち込むことができます。
また、教育的な面でも、高大連携プログラムにより大学の特別授業が受けられたり、大学の施設の利用や大学生との交流など、付属校でしかできない経験も豊富です。
一方で、系列大学に進学しない場合はデメリットの面も大きくなります。ほとんどの準付属校では、系列大学への内部進学の権利を有したまま他大学の併願受験を認めるなど、他大学受験への一定の支援はあるものの、進学校と比べると十分とはいえません。
また、内部進学率が100%ではないとはいえ、同級生の70%以上が系列大学への内部進学をする環境下で多大学受験を目指すのは、モチベーションの面でも対策の面でも、決して簡単なことではありません。
進学型付属校
進学型付属校とは、系列大学への内部進学率が70%未満と、多くの生徒が他大学へ進学している付属校を指します。神奈川県内では、日大系、鎌倉女子大学、湘南工科大学附属、関東学院六浦、相模女子大学、麻布大学附属、鶴見大学附属、横浜商科大がこの分類にあてはまります。
「特進コース」など他大学への進学を前提としたコースがあるのが特徴です。
下の表は、2023年度卒業生の系列大への内部進学率と、国公立・早慶上理の合格者の割合です(横浜商科大は2024.5.30時点で不明のため省略)。
学校名 | 内部進学率 | 国公立 | 早慶上理 |
---|---|---|---|
日本大学高 | 51.1% | 7.8% | 6.9% |
日本大学藤沢 | 50.1% | 3.8% | 7.4% |
鎌倉女子大学 | 27.8% | 1.0% | 1.0% |
湘南工科大学附属 | 21.5% | 1.9% | 3.9% |
関東学院六浦 | 19.5% | 2.4% | 6.1% |
相模女子大学 | 18.4% | 2.1% | 3.6% |
鶴見大学附属 | 4.4% | 3.9% | 9.4% |
麻布大学附属 | 4.2% | 3.6% | 6.9% |
2つの日大付属の内部進学率は50%そこそこと、日大に進学する人と他大学へ進学する人が半分ずつに分かれます。日大以外の付属校の内部進学率は低く、特に鶴見大付属や麻布大付属は、付属校でありながら全てのコースで他大学に進学することが前提のもと指導が行われています。
進学型付属校のメリットデメリット
神奈川県の場合、進学型付属校は日大系とそれ以外で解釈が分かれます。
まずは日大系の場合、2校とも「特進クラス」は積極的に他大学を目指す指導が行われます。一方、「総合進学コース」は基本的に日大進学を前提としたカリキュラムです。総合進学コースでも他大学を希望する人はいますが、そのほとんどが指定校推薦などで他大学を目指します。このように、日大は所属コースによって他大学への進学のしやすさが異なります。
また、日大の付属は他大学への進学者が多い分、他大学の指定校推薦枠も多く持っている一方で、半分は日大に進学するため、他の高校よりも指定校推薦が取りやすいのもメリットの1つです。
日大以外のこのタイプの付属校は、基本的に付属校よりも進学校という位置付けです。付属校であることを考えなくてもいいと思います。付属校であるメリットはほとんど享受できませんが、普通の進学校よりもいざというときは系列大学に進学ができるという安心感はあるかもしれません。
まとめ
このように、一口に付属校と言ってもその種類によって様々なメリットデメリットがあります。併願するかどうかを考えるときには、付属校とひとまとめにするのではなく、それぞれの高校をよく調べておくことが大切です。