「神奈川県公立入試を、得点分布から分析してみた」シリーズを通して、2014年度の入試分析を5科目それぞれで書いてきた。今日はそのまとめとして、高校入試が難しくなると何が変わるのかについて考えてみたいと思う。
2013年度に新入試制度に移行されてから、初年度は英語・社会・国語の文系科目が、2014年度の今年は理科・数学の理系科目がそれぞれ難化した。この2年で一通り全ての科目で大きく難化したことになるが、この傾向はおそらく来年度以降も続くだろうと考えている。今以上に難しくなるかは分からないが、少なくとも今の難易度や傾向は維持されていくことだろう。
入試が難しくなっても受検生にはほとんど影響しない
では、高校入試が難しくなると一体何が変わるのか。
まず確認しておきたいことは、問題が難しくなること自体、実はほとんどの受検生に直接的な影響をおよぼさない。入試というのはあくまでも志願者の中での相対的な「順位」によって合否が決まるものであり、「○○点以上取れないと不合格」という絶対的な数値によって決まるものではないからだ。
ただし、入試問題が難しくなると上位層で差が開くようになり、簡単になると逆に下位層で差が開くようになる。では、難しい入試は上位層の受検生に不利で、簡単な入試は下位層の受検生に不利なのかというと、そういうわけでもない。入試が難しかろうが易しかろうが、どれだけ差が開こうが僅差の勝負だろうが、順位というものは得点が取れた順番に1位から順についていくからだ。
県教委の真の狙いとその矛盾
では神奈川県は何のために高校入試を難しくしたのか。
入試が変わると一番変わるものは、ズバリ県内の中学生の学力だ。入試が難しくなれば、受検生は難しい入試に対応しようと勉強してくる。選択問題だらけの簡単な入試だったらそれなりの勉強しかしないけれど、入試に記述問題が多くなれば当然多くの受検生は記述問題の練習をする。県の本当の狙いは、入試を難しくすることにより、県内の中学生の学力を向上させようとしているのだろう。私もこのブログで何度か入試は難しくした方が良いという見解を述べてきたが、その理由が「入試を難しくすれば中学生がもっと高度なことを勉強する」ということである。
しかし、ここには大きな順序の違いが生じていることにお気付きだろうか。
入試が難しくなれば、県内の中学生の学力が上がると述べたが、その前に学校教育の質の向上を前提としなければいけない。学校教育の質が上がっていないのに入試だけ難しくしてしまうと、当然お金を出して塾に通える生徒が有利になる。そうなると、今以上に教育格差が生じてしまうことになりかねない。入試の難易度を上げるのならば、まず学校教育の質を難しくなった入試に見合うように向上させなければいけないのだ。
・・・とは言うものの、公教育全体の質を上げるのは至難の業だろうな。難しくなった今の神奈川の入試では、どの科目も言語能力がないと全く歯が立たないのだけれども、じゃあ学校の国語で言語能力を向上させるような授業をしているのか。教科書の物語文を読み、極めて主観的な感想を生徒同士で言い合っているだけでは言語能力は育たないぞ。