教育本を100冊以上読んできた私が、一番オススメしたい衝撃の一冊:「見える学力、見えない学力」

2016年5月10日

土曜日に偶然とあるブログに出会い、そこで紹介されていた本を早速購入して読んでみたところ、かなりの衝撃を受けてしまいましたので、今日のブログネタにしたいと思います。
ちなみにそのブログも強烈ですので、是非一度読んでみてください。→できる子はできない子の4.6倍のボキャブラリーがあるー日本語の語彙を測る/増やす方法

そして今回読んだ本がコレ。教育界ではもはや古典とされる本で、熱心に教育を研究されている方なら一度は読まれたことがあるのではないでしょうか。


教育関係の本はこれまで数多く読んできましたが、その中でも今回読んだ岸本裕史著の「改訂版:見える学力、見えない学力」は群を抜いています。初版発行が1981年、本書の改訂版でも1996年と、今から20年も前に書かれた本でありながら、その内容は普遍的であり、ほとんど古臭さを感じさせません。もはや教育・子育て書のバイブルと言ってもいいでしょう。特に小学生以下のお子様をお持ちの保護者の方に、そして小中学生の教育に関わる教育関係者全てに読んでもらいたい、いや読んでおくべき一冊です。読んでいてあまりにも感動してしまい、塾生の保護者の方に一冊ずつプレゼントしようかという衝動に駆られたくらいです。

さて、著者である岸本裕史氏は、あの有名な百マス計算の生みの親でもある先生です(偶然私と同じ名字ですが、残念ながら何の縁もゆかりもありません)。百マス計算というと陰山英男先生という印象が強いとは思いますが、岸本先生は陰山先生の師にあたる存在です。岸本先生が考案された百マス計算を、陰山先生が世に広められました。

この本にも基礎計算の大切さが書かれてあります。しかしそれよりも特に強調されているのが「言語能力」です。

知的能力の中核は言語能力です。俗に頭がいいとか、高い知能を持っていると言われているのは、言語を思考の道具として自由に駆使したり、多彩に概念を操作できる能力が優れているということなのです。この能力は、生まれてから後の言語環境のよしあしと学習によって決まってきます。
ーまえがきより

このブログでも折りに触れて国語力・言語能力の大切さを訴えてきましたが、学習塾で長年子ども達を教えていると、国語力・言語能力こそが学力の基盤であることが嫌でも思い知らされます。この本は、私がこの仕事をしている中で感覚的に感じていたことが明文化されていました。

そこで今日は、本の内容と塾で生徒と接してきた中で感じてきたことを融合させて記事にしてみたいと思います。

地頭の良さ=言語能力の高さ

言語能力は、おおまかにいって語彙をどれだけ知っているか、どれだけ自由に使いこなせるかによって、ほぼ規定されると岸本氏は言います。小学校入学時に、普通の子どもであれば3000程度、よくできると見られている子どもは6000以上ものことばを自由に使えるまでに至っているそうです。それが小学校6年生になれば、少ない子で8000語、優秀な子で37000語と、かなりの差が開くことになります。

たくさんのことばを知っているということは、それだけ一般化・抽象化できる能力の素地が高まってきたとみなしてもさしつかえないでしょう。親が日常使っていることばの質が高ければ、おのずと子どもの言語能力の発達は促進されます。順接・逆接がいろいろと組み合わされた複文構造の物の言い方をよく聞いて育った子は、算数の文章題を解くことは、たいしてむずかしいことではありません。計算のしかたさえきちんとのみこんでおれば、ちっとも苦労せずに正解を出すことができるのです。

塾に入塾してくる生徒で、これまで勉強をサボってきた結果、全く算数や数学、英語が分からなくなってしまったという子は珍しくありません。そういう生徒が今後伸びる見込みがあるかどうかを見極める判断材料が、国語の力です。算数や英語はほぼ関係ありません。読書経験が豊富で言葉をよく理解している子は、たとえそれが数学でも英語でも、分からなくなったところから戻ってきちんと復習していけば、確実に伸びていきます。この記事でも書きましたが、受験時になって後半になるほどグングン伸びていく子も国語力、ひいては言語能力が高い子です。

一方で、国語力や言語能力が乏しい子は、国語と一見関係なさそうな数学や理科でも、一定の水準まで学力を押し上げるのにかなり苦労します。このような子どもは、「数学や英語が苦手だから分からなくなった」のではありません。「言語能力が乏しさが原因で、他の教科もできなくなった」のです。生徒も親御さんも、この部分をかなり勘違いしてしまいます。英語が苦手だから、数学が苦手だから、その科目を一生懸命勉強すればできるようになると思い込んでしまっています。もちろん、その科目だけを一生懸命勉強すれば、ある程度くらいにはなるかもしれません。しかし、根本的に言語能力をどうにかしなければ、ある一定以上になるとピタッと伸びなくなってくるのです。

応用ができる子=読書をしてきた子

小学校でよくできる子は、すべてといってよいほど読書好きです。そんなに学校で習ったことを懸命に復習しているわけではないのに、水準以上の成績をおさめている子は、例外なく本好きです。本好きな子が、学校で習ったことを毎日きちんとつめて復習していれば、ほとんどトップレベルの成績になっています。図式化していうと、読書好きの子は、書取と計算さえしっかり練習しておけば、まちがいなく上位の成績を得ることができるのです。

これは小学生に限らず中学生にも言えることです。いわゆる「応用ができる子」というのは、総じて読書経験が豊富で、言語能力の高い子です。英国社の文系分野はもちろん、数学の特に文章題や理科のような理系分野であってもです。さすがに数学の図形分野は言語能力とは切り離されたところにありますが。

応用ができるためには、与えられた問題をきちんと読み取れる力、文章からイメージ化や図式化できる力が欠かせませんが、これらの力は読書から培われるものです。

先ほど、言語能力が高い子は受験後半に伸びると書きましたが、言語能力が低い子が受験後半に伸びにくいのは、応用問題に対応できないからです。受験後半になるにつれ、基礎から応用へと問題がだんだんシフトしていきます。言語能力が低い子は、基本的に今までに解いたことのないパターンには対応できません。だから言語能力が低い子が受験で戦うとき、考え得る限りの膨大な量の問題パターンを頭にストックしていかなければいけなくなり、勉強する内容も大量になります。

一方、言語能力が高い子は、受験期前半で各教科の基礎をきちんと積み上げておけば、あとは持ち前の言語能力で基礎を自由に操ることができます。応用が利くので、膨大なパターンを頭にストックしなくても良いのです。よく、難関といわれる学校に合格した人が「基礎だけしっかり勉強したら合格する」みたいなアドバイスをしますが、それは言語能力が高いからです。言語能力が低い子が、いくら基礎を完璧にやったとしても、応用問題はできるようになりません。

まとめ

そのほかにも紹介したいことは山ほどありますが、書けばキリがないのでこの辺でやめておきます。とにかく、一度ご一読ください。特に塾生の保護者の方に対しては、必ずお読みいただきたい一冊です。お読みいただければ、私がこのブログでこれまでに書いてきたこと、そして塾生に対して常に言っていることがお分かりいただけるかと思います。それだけではなく、では言語能力が高い子に育てるためにはどうすればいいのか、将来生きる力を十分に兼ね備えた子に育てるためにはどうすればいいのかなどの子育てのヒントが満載です。

高校入試や大学入試など、「入試」と名のつくテストは、その性質上、言語能力が水準以上に達していない者は淘汰されるようにできています。最近の神奈川県の入試は特にそうです。最近特色検査研究の記事を書いていますが、特色検査はもはや言語能力のテストと言い換えても良いくらいです。今の入試制度下でトップ校を目指すためには、昔以上に高い言語能力が求められているのです。

もう一度、読み書き計算の「読み書き」の部分にきちんと向き合った方が良い時代になってきているのだと思います。