気がつけばもう10月も中旬、神奈川県の公立入試まで約4ヶ月となりました。うちの塾でも、現在2回目の進路面談の真っ最中です。この時期は、前期の成績とにらめっこしながら併願私立高校の絞り込みや、模試の得点の取り方を分析して本人の伸びしろを見極めながら、公立高校の志望校について考えていく内容の面談になります。
うちの塾では、7月・10月・12月・1月の計4回の三者面談で志望校や進路を決めていくことになりますが、毎年この10月の時期の進路面談が最もやりにくいと感じています。なぜなら、保護者の方と塾生との受験に対する温度差が最も激しいのがこの時期だからです。
お母さんやお父さんは「もうあと4ヶ月しかない」と焦るあまり、「あと4ヶ月なのにこんな模試の点数で大丈夫か」「もう伸びないのではないか」と極端に心配している横で、当の受験生本人はまだまだまるで他人事のようにのんびりとしている場合がほとんどです。そして、のんびりと構えている様子を見たお母さんお父さんが、イライラしだして機嫌が悪くなる、というのがこの時期の三者面談のあるあるネタです。
12月や1月の面談になれば、受験生本人にもそろそろ焦りの色が見え始め、保護者の方との受験に対する温度差がだんだん縮まっていくのですが、この時期はどこの家庭でも大なり小なりの温度差がありますね。
では、なぜこの時期はこんなにも温度差が発生するのでしょう。それは、親と子どもが感じる3つの「違い」にあります。
時間感覚の違い
まず、保護者の方にわかっておいていただきたいのは、子どもと大人の時間感覚は違うということです。これはジャネーの法則によって19世紀にすでに解明されています。
簡単に言えば生涯のある時期における時間の心理的長さは年齢の逆数に比例する(年齢に反比例する)。
例えば、50歳の人間にとって1年の長さは人生の50分の1ほどであるが、5歳の人間にとっては5分の1に相当する。よって、50歳の人間にとっての10年間は5歳の人間にとっての1年間に当たり、5歳の人間の1日が50歳の人間の10日に当たることになる。ーwikipedia「ジャネーの法則」より
時間の心理的長さは年齢に反比例するということは、入試までの残り4ヶ月という時間は、例えば45歳の大人にとって4ヶ月でも、15歳の受験生にとってはその3倍の12ヶ月と感じているということになります。
4ヶ月と12ヶ月。かなりの差です。つまり15歳の子どもにとって4ヶ月先のことというのは、大人にとって1年先のことと同じ感覚なのです。そりゃ、他人事のようにのんびりと構えているはずです。
大人はこの時間感覚の違いをきちんと理解しておく必要があります。親ばかり焦ってしまい、のんびりとしている子どもにそのイライラや不安をぶつけてしまっても、そもそも時間感覚が違う両者が分かり合えることはありません。むしろ、親子関係に軋轢を生むだけで、受験にプラスになることは全くありません。
成長スピードの違い
この時期に保護者の方が不安になる大きな心配事の一つに、「果たしてこの子は今後4ヶ月で本当に伸びていくんだろうか」ということです。
面談でこのようなことを聞かれると、「間違いなく伸びますので安心してください」と断言します。
時間の感覚が大人と子どもと全く違うように、成長のスピードだって大人と子どもでは全く違います。15歳なんてまだまだ成長期の真っ只中。中2生と中3生を比べてみても、たった1歳違うだけなのに、肉体的にはもちろん、精神的にも学力的にもかなりの差があります。一方大人なんて、44歳だろうが45歳だろうが、シワやシミがちょっと増えたかなというくらいで、中身も見た目もほとんど変化がありません。
大人になれば、4ヶ月ではほとんど成長は感じられないでしょう。でも、子どもは違います。4ヶ月もあれば、身長もぐんぐん伸びるしどんどん知識も吸収するし、いろんなことができるようになります。
大人の成長スピードを子どもに当てはめて、「もう伸びないのではないか」と心配するのはやめてください。あなたの子どもは日々、間違いなく成長しています。
思い出と現状の違い
学歴が高いお母さんお父さんに特に多いのが、「お母さん(お父さん)が受験生だった頃は、この時期はもっと必死になって勉強してたよ」という昔話です。ご自分の過去と、目の前の子どもの現状とを比べて、その差にイライラされる方が結構いらっしゃいます。
もちろん保護者の方が受験生の頃、本当に必死に勉強されていたのでしょう。そこは否定しません。しかし、過去の思い出というのは、少なからず美化されたり補正されたりするのもまた事実です。
大人になって受験という経験を振り返ってみたとき、勉強が大変だったとか、あんな努力をしたとかという、受験に対して頑張ったプラスの経験がギュッと凝縮されて思い出されます。必ずあったであろうはずの、ダラダラと過ごした日々、勉強していなかった日々はなかなか思い出されません。
ところが今目の前の子どもは、勉強もせずにダラダラしている。いや、勉強をしている時もあるというのも分かってはいるけれど、それよりもダラダラしている時の方が目についてしまうのです。
つまり、ご自分の過去は「思い出補正」によって頑張った経験のみを記憶しているのに対し、目の前の子どもに対しては頑張っていないことの方が目についてしまう。その思い出と現状のギャップが、イライラの原因になってしまうのです。
ご自分の経験を子どもに話す時は、「お母さんの頃はこうだったよ」という一つのアドバイスならいいとは思うのですが、「だからあなたはダメなんだ」「だからあなたはこうしなさい」というよう、思い出補正がバリバリかかったご自分の経験を押し付けたり、今の子どもと比較することは避けてください。
じゃあ、今の時期の親は何をすればいい?
特に10月から12月にかけては、受験に対する温度差の違いから、最も親子ゲンカが多く発生する時期です。その親子ゲンカの発生の要因の8割くらいは、おそらく上の3つのいずれかが原因で、親がイライラしてしまうことにあります。
志望校が決まらない、当事者意識に欠ける、勉強しない、のんびりしているなどなど。確かにイライラするでしょう。でも、そのイライラを子どもにぶつけても、良いことは一つもありません。親から「勉強しなさい!」と叱られて、「ハイわかりました」と素直に勉強する15歳がどれだけいるでしょうか。叱られないように、形だけは机に向かうかもしれませんが、机の上で適当に時間を潰して終わりです。中身はありません。
辛辣な言い方にはなりますが、イライラをぶつけてスカッとするのは親だけです。子どもにとっては、イライラをぶつけられても偏差値1つだって上がらないし、余計に勉強に対するモチベーションをなくすだけです。
この時期は、過度ではなく適度で心地よい期待をかけてあげてください。今の子どもの現状がどんなものであろうと、やるべき時はやると信じてあげてください。できればそれを言葉にして、伝えてあげてください。そして、お母さんはお母さんのできること、例えば美味しい料理を作ったり、勉強している子どもに温かい飲み物を作ってあげたりなどを、精一杯やってください。
やはり、親から期待され(過度な期待は逆効果)、信じてもらえていることを知ると、子どもは嬉しいものです。そして親が自分のために頑張ってくれているのが分かると、子どももその期待と信頼に応えようと頑張ろうとします。意味のない「勉強しなさい」の一言よりも、何倍も何十倍も効果的です。
2年前にも似たような記事を書いたので、こちらも合わせてどうぞ。
参考:)高校受験まで残り4ヶ月!「子どもを潰す親」にならないために。