『進学型』単位制として、進化を続ける小田原高校の今。

2015年11月13日

先日の秦野高校に続き、今日は地元小田原高校に訪問させていただきました。小田原高校への訪問は今年で3回目。昨年、現校長の大嶽校長先生が着任され、「学力向上進学重点校により重点を置いた校内改革に着手する」という内容のお話をされていましたが、果たして校内改革の進捗状況はどうなのでしょうか。今回の訪問では、学力向上進学重点校としての小田原高校の方針を中心にお話を伺ってきました。

参考:昨年度小田原高校訪問の記事「小田原高校に行って、校長先生にお話を聞いてみたよ!
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「学力向上進学重点校」に重点を置いた校内改革

大嶽校長先生が開口一番に切り出された話題は、「学力向上進学重点校」についてだった。周知の通り、来年度から神奈川県全体で県立高校改革計画が始まる(参考:県立高校改革計画<素案>ー県教委より)。県の高校改革計画について詳しく述べるのは今回控えさせていただくが、高校改革計画の一つとして、現在県内に18校存在する「学力向上進学重点校」を10校に絞り込むという案がある。単純に考えると、現在の18校のうち8校が、学力向上進学重点校から外れることになるということだ。

小田原高校は、2007年に県が初めて「学力向上進学重点校」の認定を実施して以来、今日までずっと学力向上進学重点校の指定を受け続けている、いわば学力向上進学重点校の初期メンバー。「小田原高校はもちろん、改革後の10校に認定されることを目指しています。」と大嶽校長は言う。

ただ、先ほどリンクを貼った素案をご覧頂くとお分かりの通り、次期学力向上進学重点校10校の認定条件は、これまで以上に厳しくなっている。もちろんこの改革案自体はまだ「素案」の状態であり、これで本決定ではない。しかし、大嶽校長は、「全国的な大学入試改革を含め、世の中の大学や高校が変わり始めようとしている。小田原高校も進学校として、この変化の流れにしっかりと対応していかなければいけない。」とおっしゃった。

小田原高校が、県西地区の進学校として、これまで以上に学力の向上や進学に取り組んでいく。大嶽校長が進める校内改革は、この考え方が根本としてあるようだ。「私の校長としての任期中は厳しいかもしれないが、いずれは東大にリベンジできる高校にしていきたい」とのこと。

小田原高校が考える「単位制」高校

小田原高校は「進学型」単位制高校である

小田原高校の特徴と言えば、何といっても単位制高校であること。単位制高校と言えば、「生徒一人ひとりの興味関心に基づいて自由な時間割を組むことができる」というイメージが強いだろうが、現在の小田原高校が目指す単位制は、このような一般的なイメージとは一線を画す。

「小田原高校は、『進学型』単位制高校です。何でもかんでも自分の好き勝手に勉強するものを決める単位制高校ではありません。」と大嶽校長は言う。

校長先生のことば通り、昨年までの1年生は、1年次から比較的自由に選択できるカリキュラムを組んでいたが、今年の現1年生からは、1年次のカリキュラムはほぼ固定されていて、さながら普通高校のようになっている。

「早い段階から、自分は文系だから数学は勉強しないとか、自分は理系だから古典は必要ないなど、狭い視野で進路選択の幅を狭めて欲しくはありません。将来文系に進もうが理系に進もうが、幅広い教科を学ぶことは、その人の教養の下地として大切なことです。このように考えて、今年の1年生の教育課程をほぼ一定にすることにしました。」とのこと。

昨年度の訪問時にも、就任されたばかりの大嶽校長が「うちは、進学校としての単位制高校である」ということを強調されていた。自分の興味関心の赴くままに、好きなものを好きなように選択する従来の単位制は、「個性を伸ばす」と言えばたしかに聞こえは良いが、「個性を伸ばす」ことで未知の可能性を切り捨てることはあってはならない。小田原高校の目指す「進学型」単位制とは、個性を大切にしつつも、未知の可能性を決して切り捨てない。そんな印象を受けた。

普通高校と進学型単位制としての小田原高校の違いとは

このように、現在の小田原高校は、1年次のカリキュラムだけ見れば、普通高校とほぼ何も変わらない。それでも、小田原高校が単位制であり続けることの目的とは一体何か。

「単位制とすることで、2年次3年次の自由選択科目において多種多様な講座を、少人数制授業にて展開することができます。大学受験対策としての講座や、より専門性を深める講座を、生徒それぞれのニーズに合わせて選択できる。つまり、コースが予め決まっている普通高校よりも、生徒一人ひとりの進路に合わせた細やかな勉強・対策ができることです。これが『進学型』単位制高校としてのメリットです。」と、伊藤副校長先生に答えていただいた。

生徒が目指す大学への進学に向けて、単位制のメリットである「少人数制授業」や「多種多様な講座選択」を最大限に生かす。これが、小田原高校が単位制の前にあえて「進学型」という冠をつけた背景なのだろう。

中高一貫校により近づける教育カリキュラムの実現へ

上でも述べた県立高校改革計画の中に、

一つの年次を、前期・後期の2期に分け、半期区分による単位認定(半期単位認定制=セメスター制)を位置づけるなど、単位制の利点を生かし、生徒の単位修得をきめ細かく行えるように工夫するとともに、進路希望の実現に向けた教育過程の編成と運用に取り組みます。

という文言がある。もちろんこれはまだ素案の状態なので、いつの段階で実現するかどうかは定かではないが、大嶽校長はこの文言に非常に注視されている。「半期単位認定制が実現すれば、中高一貫校により近づける教育カリキュラムを展開できるようになります。たとえば、数学で言うと、数Ⅱを2年生の前期までに単位を取ると、(本来は3年生で学ぶ)数Ⅲを2年生の後期に履修することができるようになります。そうすれば、3年次の1年間を丸々受験対策の演習に充てることも可能になるわけです。こうなると、進学型単位制高校で学ぶことのメリットがさらに大きくなります。」とのこと。

部活動や小田高3大行事を通しての全人教育

現在小田高に在学中の卒塾生から、「だんだん小田高の学校行事が少なくなってきた」ということを耳にしていた。その辺りを率直に大嶽校長にぶつけてみた。

「小田高の3大行事である文化祭・体育祭・合唱コンクールはしっかりと実施します。行事をきっかけにして、生徒たちは人間的にも随分成長しますからね。ただ、文化祭の準備に充てるために午後の授業を潰すなどということは止めました。文科省から決められている授業時間ときちんと確保するためです。また、おっしゃる通り、遠足を年に2回から1回にしたり、スポーツ大会を1回減らしたりというような、いくつかの行事の見直しはしました。」とのこと。

校長がおっしゃるように、全人教育という観点から、学校行事を決して軽視しているということではないようだが、授業時間数を確保するために、いくつかの行事は削減されたり準備期間の日数が短くなったりしていることは事実なようだ。

部活動はどうか。
「部活動に関して私がいつも言っているのは、勉強で実績をあげての小田原高校であるということです。部活動だけ目立つようなことは、他の高校でもできます。部活動と勉強の両立をしっかりやっていくことを指導する顧問にも生徒にも言っています。ただ、これに関しては小田高生はよくやってくれていると思いますね。」とおっしゃっていた。

高校は塾や予備校のように、大学進学実績だけを追っていれば良いという場所ではない。小田原高校のような進学校は、学力に対する教育と、人を創る教育、つまり全人教育とを上手く両立させていかなければいけない。大嶽校長は、そのような想いを強く持っている校長先生といえるだろう。全人教育と学力に対する教育を両立させる上で、引き継ぐべきものは引き継ぎ、削ぐべきものは削ぐ。その潔さからも、小田高の校内改革の本気度が伺える。

小田原高校が求める生徒像

最後に、今後どのような生徒に入学して欲しいかとういう質問をした。

「狭い世界での知識でこぢんまりとまとまらない生徒ですかね。荒削りでも良いので、色々なものに興味を持ち、粘り強い子に是非とも入ってきて欲しい。たとえば、将来新聞記者になりたいという夢を持った子がいたとします。色々な世界を見た上で夢を新聞記者としたのか、またはそれしか見てこなかった狭い視野での夢なのかによって、まるで変わってくると思んです。色々なものに興味を持って欲しいというメッセージに関しては、小田原高校の特色検査にも反映させているつもりです。」と大嶽校長はおっしゃった。

たしかに、小田原高校の特色検査は、教科横断色が濃く、大嶽校長のおっしゃるように、日頃から色々なことに興味を持ち、見識を深め、自分の頭で考える癖をつけていなければ、簡単には高得点を取ることができない内容になっている。

また、大嶽校長はこうもおっしゃった。

「高校選びに迷っている中3生に言いたいことがあります。中学3年生のうちはピンとこないかもしれないけれど、高校生になれば色んなことで悩み、考えるようになります。たとえば人生のこと、進路のこと、時には男女関係のこともそうです。そのような『堅い』話題について、茶化し合うのではなく、真剣に語り合えるような知的空気のある高校を選んで欲しいと思っています。そして、小田高も、そのような知的空気のある学校にしたいと思っています。」

まとめ

大嶽校長が着任されて2年目。進学に力を入れるという小田高の校内改革がいよいよ本格的に動き出した。進学型単位制高校という新しいストーリーを、115年の伝統にどのように組み込んでいくのか。

昔ながらのクラシカルな進学校としてのあり方を追い求める一方で、社会の教育に関するムーブメントを敏感にキャッチしながら改革を続ける小田原高校の姿に、県西地区トップ校としての誇りと責任を感じた訪問だった。

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