湘南高校の2018年度特色検査の分析記事です。
後述していますが、2019年度は特色検査の出題傾向がガラリと変わる可能性のある年です。なので、今回の分析記事は、これまでのように単純に問題傾向と対策法を書くのではなく、その問題が何を問うているのか、どんな種類の問題なのか、その高校が何を求めているのかという視点から分析をしてみました。
久しぶりに3000字オーバーのボリュームでお届けします。
それではどうぞ。
問1:“This is the 特色検査”
湘南の特色検査は、毎年問1で『言語』をテーマにした大問を出題します。2018年度の問1も「ことばの移り変わり」がテーマの問題でした。
湘南は言語能力の高い生徒を求めているのかと思うほど、この問1では毎年言語理解に対するこだわりがものすごく感じられます。それゆえ、高度な言語センスを求められるような問題が必ず出題されます。2018年度でいうと、問1の(ウ)のカタカナ語のメリットを問う問題がそれにあたるでしょう。
しかし、だからと言って問1が高度な言語能力を問う問題ばかりなのかというと、そうではありません。2018年度は、データ分析や読み取りなどの情報処理の問題もここで2問登場します。(イ)と(オ)の問題がそれにあたります。
また、問1の(エ)の「1960年頃のかたつむりの主な呼称の分布」の問題を解くためには、問題文と表をよく読み取ることに加え、鎌倉時代や室町時代などの年代の把握、各県の京都からのおおよその距離といった、社会の歴史や地理の知識がバックグラウンドで必要になります。
神奈川県の特色検査は、一言で表すと『通常の英数国理社の学力検査とは一線を画し、文章やデータなど様々な形式で与えられた情報をもとに、今までに培った知識を生かして解く教科横断的な検査』ですが、2018年度の湘南の問1は、たった5問にまさにこの特色検査の要素を全て凝縮しています。まさに“This is the 特色検査.”といえる問題でしょう。
使用教科:国語・社会(バックグラウンドの知識レベル)
難易度:★★★☆☆
問2:特色検査のオムニバス
問2は小問集合。これももはや湘南の問2の定番ですね。
2018年度の問2は4問。それぞれの問いの中身は以下の通り。
- (ア)…古文・理科の融合問題
- (イ)…論理パズル
- (ウ)…英語「so」の使い方
- (エ)…立体図形
この問2の中で一番湘南らしいのが(エ)の立体図形の問題です。基本的には算数の体積問題なのですが、ここに中学の技術家庭で習う平面図や立面図といった「製図」の要素の理解も含みます。
湘南は毎年問2で技能科目の要素を含む問題を必ず1問は出題してくるのですが、「5教科だけではなく技能科目もきちんと勉強してください」というメッセージなのでしょうか。部活も勉強も行事も、なんでもオールマイティにこなせる生徒が多く通う湘南ならではだなと感じます。
ちなみに、他の高校の特色検査は英語読解問題に関する出題が多く、英語がよくできる生徒が多いトップ校受験生にとっては英語の出題部分で点数の稼ぎどころとなるのですが、湘南に関してはその限りではありません。湘南の英語は問2の(ウ)のみ。配点にしてたった7点です。
また、湘南は(イ)のような論理パズルも好きですね。このようなパズルは、科目の知識が全く必要なく、論理的な思考力のみが試されます。希望ヶ丘もこのタイプの問題を好みます。
この問2の小問集合ですが、ここで色々なタイプの問題を出題することによって、湘南の特色検査がある特定の科目や分野に偏ることを防いでいるのだと考えられます。ある分野に長けた生徒を欲するのではなく、あくまでオールラウンダーを求めるという湘南の姿勢が、この小問集合からうかがえます。
使用教科:(ア)国理(イ)なし(ウ)英語(エ)数技
難易度:★★★☆☆
問3:This is the 特色検査 again.壮大な教科横断問題。
2018年度の問3は水資源をテーマにした教科横断問題でした。これも毎年の傾向で、湘南は問3に理数的要素を多く含む教科横断問題を出題しています。
ただ一口に「理数的要素を多く含む教科横断問題」と言っても単純に理数の知識や思考力を問う問題ではなく、社会や家庭科の基礎知識がバックグラウンドレベルで必要だったり、難解な文章と解りづらい複数のデータを読み取る必要があったり、そうかと思えば単位変換が必要な桁の大きな数字を正確に計算する計算力が求められたりと、一つの大問のたった5問の設問に色々な要素が組み合わされている、それはそれは壮大な教科横断問題です。よくこんな問題が作れるものだなと感心するレベルです。
はっきり言ってこの問題作った人すごい。
また、この教科横断問題も、問1の言語に関する問題同様、学校で学ぶいろいろな科目の知識や解法は直接的には問われていません。あくまでも読解や思考、データ分析が問題のメインであり、それらを解くために各科目の知識を関連付けることが必要なのです。
つまり、思考力や文章・データの読解力があっても各科目の知識や計算能力がないと解けないし、逆に各科目の知識や計算能力があっても思考力や文章・データの読解力がないと解けない。まさにそれが特色検査です。この問3も問1同様、”This is the 特色検査.”と言える問題でしょう。
使用教科:社会・家庭科・数学
難易度:★★★★☆
まとめ
湘南が大切にしているもの
このブログでも何度もお伝えしているとおり、2019年度の入試から特色検査が変わります。今までのように各学校が作問するのではなく、教育委員会が全ての問題を作り、各高校がその中から好きな問題を選ぶという方式になります。また、全ての特色検査校共通で出題される共通問題も登場します。
つまり、問1が言語テーマ、問2が小問集合、問3が理系総合問題といった湘南の出題傾向も、2019年度はガラッと様変わりしてしまうことも十分あり得ます。
ただ、それでもこの湘南の特色検査から見えてくるのは、
- 特定の科目や分野に偏らない
- 学力検査延長型ではなく、読解・論理的思考・情報処理型
を湘南は大切にしているということでしょう。県教委がそのような問題を作問するかどうかは解りませんが、湘南は間違いなく選択問題でそのような問題を選んでくると思います。
すべての特色検査校受験生は湘南の問1と問3を解いておこう
あと一つ声を大にして言いたいことは、湘南を志望している人はもちろんのこと、湘南以外の特色検査校を志望している人でも、2018年の問1と問3は解いておいた方がいいです。この2問から特色検査の何たるかが解ります。
全校共通の「共通問題」についてですが、以前教育委員会の中の人と話をしたときに、県教委の人がこのような話をしていました。
現在、特色検査と言っても高校によって様々ですが、中には学力検査のような内容の検査も少なくありません。我々としては、通常の5教科の学力検査をさらに難しくしたような、あるいは特定の科目にだけ偏ったような内容にするつもりはありません。それよりも、教科横断的な、思考力を問う内容のテストにするつもりです。
参考:特色検査や入試について、県教委の中の人に話を聞いてきた2018。
この県教委の目指す特色検査の問題像が、湘南の問1や問3のような気がしてならないんですよね。もちろん全校の共通問題なので、湘南の問題ほどレベルは高くはないとは思いますが、少なくとも求める能力や問いたいことは湘南の問1と問3に通ずるものがあると思います。