特色検査や入試について、県教委の中の人に話を聞いてきた2018。

今日は、横浜で開催された「教育シンポジウム」なる会合に参加してきました。昨年度から始まったこの教育シンポジウムは、我々中小の学習塾の団体と神奈川県教育委員会とで、県公立入試についてや教育についての様々なことを意見交換する交流会のようなものです。

昨年度の教育シンポジウムレポートはこちら。
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昨年度のレポート記事でも同じようなことを書きましたが、大切なことなのでもう一度。学習塾と県の教育委員会がこのような意見交換の場を持つことは、一昔前では到底考えられませんでした。今だって、全国的に見れば、学習塾は教育委員会はおろか、公立高校ともまともに交流ができない自治体の方が主流で、神奈川県はだいぶ進んでいる方だと思います。

今年も神奈川県教育委員会の教育局指導部長の岡野さん(去年は課長さん。今年は見事部長に昇進!)と、色々な内容について意見交換をしてきました。その中で、ブログ読者の皆様と共有したい内容だけをピックアップして、お伝えしたいと思います。

2018年度入試について

まずは今春行われた2018年度の入試についての総括です。2017年度と比べると、県全体の平均点が5教科総合で約25点のマイナス(2017年度289.3点→2018年度264.4点)でした。その中でも、特に社会の平均点が2017年度の54.5点から2018年度は45.3点と、12.7点もの大幅なマイナスであったことが、我々の記憶にも新しいところです。

▼過去3年間の県立高校入試合格者平均点(県教育委員会発表)

年度 英語 数学 国語 理科 社会 合計
2018 56.1 56.0 65.6 45.3 41.8 264.8
2017 51.3 63.5 73.1 46.9 54.5 289.3
2016 43.0 51.7 64.7 46.5 52.0 257.9

各教科平均点50点くらいになるように作問

岡野部長「明確な目標があるわけではありませんが、だいたい各科目平均点が50点くらいになるように問題を考えています。2017年度は数学で63.5点、国語で73.1点と平均点が高めに出たので、平均点が下がるように考えて作りました。英数国の3科目に関しては、我々の思惑通りにコントロールできたかと思います。」

これまでの県入試の課題の一つに、「科目による平均点の乖離が大きい」ということがありました。特に2017年度は、国語と理科の難易度の差が大きな問題となったことから、昨年度のシンポジウムでも、当時課長だった岡野課長は、国語の難易度を調整するというニュアンスのことを仰っていました。

その結果、2018年度の入試は、英数で平均点が56点と同じくらい、国語も65.6点と英数と比べるとまだかけ離れているものの、昨年度の73.1点から比べるとだいぶ抑えられた平均点となりました。

2018年度の社会ショックの裏側

ただ、やっぱり理科は相変わらず平均点が低いし、せっかく毎年いい感じに平均点50点代をキープしていた社会を、何を血迷ったか2018年度は40点まで急落させるという暴挙に出ましたね。

岡野部長「せっかく2017年度では理科の平均点が上がり50点平均に近づきましたが、2018年度は逆に2年前よりも下がってしまいました。これは反省するべき点です。社会は、正直平均点50点くらいだろうと予想していたのですが、あれだけ下がるとは想定外でした。」

これに対して、塾側から厳しいツッコミが矢継ぎ早に入ります。
[talk words=’なぜせっかく50点代と県教委の目標とする平均点で推移していた社会の難易度や出題傾向を、わざわざ変える必要があったのか’ name=’塾A’ align=” avatarimg=” avatarsize=” avatarshape=” avatarbdwidth=” ]

岡野部長「変えてやろうと思って変えたのではなく、ほぼ完全なマークシート化による影響で、記述の問題から選択問題にどうしても変えざるを得なかった。その中で、選択問題であっても、受検者の思考力判断力を正確に問えるような内容を重視していったところ、あのような問題になりました。」

[talk words=’県教委はあの問題で本当に平均点50点くらいになると思っていたのか’ name=’塾A’ align=” avatarimg=” avatarsize=” avatarshape=” avatarbdwidth=” ]

岡野部長「はい。色々な有識者に入試問題を見てもらいましたが、平均点50点くらいになるだろうとの見解で一致していました。」

[talk words=’ということは、県教委の想定する学力と、実際の受検者の学力とはかなりギャップがあったということになる。そのギャップを生んだ原因は何だとお考えか’ name=’塾A’ align=” avatarimg=” avatarsize=” avatarshape=” avatarbdwidth=” ]

岡野部長「えぇっと、歴史の並べ替えの問題など、もう少し正答率が高いと思っていたんですが、ああいう問題ができないということが想定外でした。」

[talk words=’ではギャップの原因は、受検生の勉強不足だと…’ name=’塾A’ align=” avatarimg=” avatarsize=” avatarshape=” avatarbdwidth=” ]

岡野部長「・・・(苦笑)」

この塾Aなる質問者、名前は伏せておきますが、相当意地が悪いですよね。せっかく意見交流をしてやろうという岡野部長を捕まえて、言いたい放題なのですから。なんかK真館のKと名乗っていたような気が。今度会ったらとっちめてやろうと思います。

県教委が想定している受検生の学力と、実際の受検生の学力には相当のギャップがあります。ただ、これまでの理科の歴史から想像するに、だからといって社会の問題を易しくしたりして、県教委側が受検生に歩み寄るのではなく、むしろ受検生がこれくらいの問題が解けるように勉強することを求められる気がします。

よって、2019年度の社会も、今年と同程度の難易度を想定して準備しておいたほうが良いと思います。

学力向上進学重点校について

もう一つ、今回のシンポジウムの大きな話題となったのが、学力向上進学重点校についてです。つい先日、県教委から新たな学力向上進学重点エントリー校と、特色検査についての扱いについての発表がありました。
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特色検査を共通化。その真意とは。

2019年度の入試の大きな目玉になるのが、間違いなく特色検査でしょう。

学力向上進学重点校4校の横浜翠嵐・湘南・柏陽・厚木と、エントリー校の平塚江南・横須賀・希望ヶ丘の7校の特色検査で、これまでの各学校が作成していた特色検査を廃止し、県教委が用意した共通の特色検査を使用。共通の特色検査の中身は、すべての高校の受検者が必ず課される共通問題と、各学校が選択した問題とがあるとのこと。

岡野部長「今回、特色検査を共通化した背景には、学力向上進学重点校を県の共通基盤として築いていきたいという意図があります。今までは重点校の看板だけ掲げ、それぞれの学校が好き勝手やっていましたが、それを、どの学力向上進学重点校に進学しても同じような質の教育が受けられるようにしようということです。なので、入口の部分の特色検査に関しても、県がコントロールしようということになりました。」

県の意図は分からないでもありません。でも、そもそも特色検査とは、「各高校の特色に応じた検査を実施できるように」と、県側が認めたテストです。各高校の特色に応じた検査なのに、高校側の好き勝手にすることを禁止し、県がコントロールするって、それっても特色検査ではないような…。

岡野部長「選択問題は10種類くらい用意するつもりで、各高校がそこからどの問題を選択するのかは自由です。この選択問題によって、高校の特色は十分出ると考えています。」

いや、それは苦し紛れに聞こえますが、部長…。

出題傾向は大きく変わる!でも出題例は出さない!!

岡野部長「これによって、それぞれの高校とも出題傾向はガラッと変わるでしょうね。」
[talk words=’具体的にどのような問題になるんですか’ name=’塾B’ align=’r’ avatarimg=” avatarsize=” avatarshape=” avatarbdwidth=” ]

岡野部長「現在、特色検査と言っても高校によって様々ですが、中には学力検査のような内容の検査も少なくありません。我々としては、通常の5教科の学力検査をさらに難しくしたような、あるいは特定の科目にだけ偏ったような内容にするつもりはありません。それよりも、教科横断的な、思考力を問う内容のテストにするつもりです。」

[talk words=’以前特色検査の制度が初めて導入されたとき、それぞれの高校が「出題例」を予め受検者に提示しました。今回出題例を提示する予定はありますか?’ name=’塾G’ align=’r’ avatarimg=” avatarsize=” avatarshape=” avatarbdwidth=” ]

岡野部長「ありません」

一同「ざわざわざわざわざわざわざわざわ…」

つまりまとめると、それぞれの高校で特色検査の傾向は大きく変わる。でもどんな問題かは今回は教えない。だからみんな頑張って勉強してきてね!

ということです。いやいやいやいやいやいやいやいや、無理があるって!!!これじゃあ受検生の負担と不安が大きすぎるって!!!!少なくとも出題例は示すべきだって!!!!!!今のままじゃあ、どんな勉強をしたらいいのか、どんな対策をしたらいいのか分からない。「15の春を泣かせない」と仰っていたけれど、今のままだったら15の春の前に15の冬に泣きまくることになる。

…とここで愚痴を言ってもしょうがないですね。それこそ先ほどの塾Aさんに頑張って欲しかったのですが、塾Aさん、こういうところチキンですよね。

一つ明確になったことは、今年の特色検査に関しては、入試当日までブラックボックスであるということです。もうこうなったら、今回の会合から得た数少ないヒントを紐解きながら、私なりに分析していくつもりです。

私感

他にも色々お伝えしたいことや共有してきたことがあるのですが、とりあえず今日の記事はこれくらいにしておきます。たくさんの塾の先生方が出席されていたので、力のある先生がそれぞれの視点でブログにまとめてくれると思いますので、他の内容に関しては、それを待ちたいと思います(←他力本願)。

ここからはあくまで、今回の会合に関しての私の勝手な私感です。

一番の印象は、県教委側と受検生側とのギャップです。社会の難易度の件に関してもそう、今年に入ってのいきなりの特色検査出題変更の発表、そして出題例も提示しないということもそう。県側が色々な改革を進めたいのは分かります。でも今の状態は完全なる県側の独りよがりです。

社会の問題にしたって、マークシート化にせざるを得なかったのは、県側が採点誤りの事故を起したからです。特色検査にしたって、変えたいのは県側の都合であり、今までの方針をガラッと変えるのなら、その方向性を受検生に分かりやすく提示するべきです。

教育改革するのは結構。でも、もう少し受検生の現状や立場を理解して欲しいなと感じました。

まあそんなことを言ってもしょうがないので、官がそういう考えなら、我々民間である塾が思いっきり受検生に寄り添うしかないんですけどね。受験生の立場に一番寄り添えるのって、塾の特権ですからね。