神奈川県教育委員会が12月14日、「県立高校改革(案)」を発表するとともに、1期計画についての全体像を公表しました。
・県立高校改革実施計画(全体)案ー12月14日発表
・県立高校改革実施計画(1期)案ー12月14日発表
2つの資料を合計すると80ページを超える膨大な量の中から、受験生や現在の中1中2生にとって必要だと思われる部分を、全力でまとめてみます。
※長文です。お時間のあるときにどうぞ。
新たな学力向上進学重点校指定はH30年から
まずは学力向上進学重点校から。現在重点校として指定されている全18校の任期は今年度いっぱいまで。来年度のH28年から2年間は、正式な重点校としての指定は行わず、現時点で重点校候補としてエントリーした高校を『エントリー校』として、経過観察することに。その経過観察の期間を経てH30年に新たな進学重点校を10校として絞り込むそうです。
学力向上進学重点校エントリー17校
この記事でも書いたように、学力向上進学重点校は完全なる手挙げ方式。つまり、各高校が独自の判断で「我が校を是非学力向上進学重点校に!」という強い要望を持っている高校ということになります。この手挙げ方式でエントリーした高校が次の17校。
【学力向上進学重点エントリー校】
横浜翠嵐・川和・多摩・柏陽・光陵・横浜平沼・希望ヶ丘・横浜緑ヶ丘・横須賀・鎌倉・湘南・茅ヶ崎北陵・平塚江南・小田原・厚木・大和・相模原
H27年度まで指定されている現在の学力向上進学重点校と比較して、新しくエントリーした高校とエントリーしなかった高校をまとめてみます。
【新しくエントリーした高校】横浜平沼・茅ヶ崎北陵
【現行の指定校の中でエントリーから外れた高校】横浜国際・追浜・秦野
特色検査導入の条件がしれっと消去されている!
以前県教委から発表された、学力向上進学重点校指定の指標として挙げられた5つの項目のうちの第1番目に、
入学者選抜において特色検査を実施し、質的・量的に充実した教科指導を展開していること
がありました。つまり、学力向上進学重点校の指定を受けるためには、特色検査導入が絶対条件ですよとしていたのです。
ところがです。今回新たに発表された素案では、この学力向上進学重点校指定の指標の第1番目が、
めざす生徒像を見据えて、課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)のある教科指導等を展開し、高いレベルの思考力・判断力・表現力等の能力の育成を図るため、各学校において達成すべき学力水準を示している
に、しれっとすり替わっているではないですか!他の4つの項目はまるっきり同じなのに、特色検査についての記述だけなぜか消去され、その代わりにアクティブラーニングを展開しているという条件にいつの間にか変更されています。秦野高校なんて、特色検査が生徒の負担になるからという理由で、学力向上進学重点校のエントリーをしないという決定をしたのに・・・。
どうした!?何があった!?教育委員会!!
現在エントリーしている17校の中でいうと、川和・多摩・横浜平沼・鎌倉・茅ヶ崎北陵・大和・相模原の7校は現状特色検査を実施していません。このいきなりの指定条件の変更は、Non特色検査実施校に考慮したものなのでしょうか。それだったら最初から考慮しておくべきだったのでは?謎です。謎過ぎます。
いろんな指定校がザクザク登場
今回の県立高校改革では、学力向上進学重点校の他にもいろんな指定校がザクザクと登場しています。県教委の狙いは、各県立高校を特色ある高校にし、自分の興味関心や進路実現に向けて、県立高校を選びやすくするところにもあります。それはもう椀飯振舞いのように、いろんな項目を作って県教委が「勝手に」色々な高校を指定校としています。こうなれば、普通の高校を探す方が困難なくらいです。
現在決まっている指定校を一気に紹介します。
授業力向上推進重点校
指定校は、公立高校の組織的授業力改善を目指し、先進的で優れた指導方法や教材等を研究開発し、研究発表等を実施することで、その成果を広く普及します。H28年度より取組みが開始され、H31年度にこれまでの取組みを受けて認定の見直しが行われるようです。
【指定校】港北・松陽・七里ガ浜・藤沢清流・伊勢原・麻布台
ICT利活用授業研究推進校
その名の通り、ICTを積極的に利用した授業を研究していくように指定された高校です。H28年度より取組みが開始され、H31年度にこれまでの取組みを受けて認定の見直しが行われるようです。
【指定校】生田・横浜旭陵・横須賀大津・秦野・上鶴間・城山
プログラミング教育研究推進校
問題解決能力を育成する一環として、プログラミング学習を研究開発するように指定された高校です。H28年度より取組みが開始され、H31年度にこれまでの取組みを受けて認定の見直しが行われるようです。
【指定校】住吉・横浜緑ヶ丘・茅ヶ崎西浜・西湘・相模原総合
逆さま歴史教育にかかる研究校
日本史と世界史において「逆さま歴史教育」に取り組む高校です。ちょっと意味分からん。近代史から始めて歴史をさかのぼるように学んでいくっていうこと??誰か教えて。
ちなみにH28年度・H29年度の2年間で実施され、この取組みが上手くいけばH30年度からは全校で導入される可能性もあるとのこと。
【指定校】神奈川工業・舞岡・津久井浜・秦野曽屋・大和南
確かな学力育成推進校
学習意欲の向上や確かな学力の育成を図るため、学び直しの学習や少人数指導を積極的に取り入れる高校。H28年度より取組みが開始され、H31年度にこれまでの取組みを受けて認定の見直しが行われるようです。
【指定校】菅・寒川・永谷・平塚湘風・津久井
理数教育推進校
理数教育に力を入れる高校。H28年度より取組みが開始され、H31年度にこれまでの取組みを受けて認定の見直しが行われるようです。優れた成果を上げた指定校は、文科省指定のスーパーサイエンスハイスクールとして指定される可能性もあるとのこと。つまり、次期SSH指定校候補とも言えるでしょう。
【指定校】多摩・希望ヶ丘・横須賀・平塚江南・相模原
旧学区トップ校ばかりです。これら5校は、今後理系色が濃くなっていく可能性が十分にあります。
グローバル教育研究推進校
英語によるコミュニケーション能力を高め、国際的な視野を持つ教育に力を入れる高校。H28年度より取組みが開始され、H31年度にこれまでの取組みを受けて認定の見直しが行われるようです。優れた成果を上げた指定校は、文科省指定のスーパーグローバルハイスクールとして指定される可能性もあるとのことです。
【指定校】神奈川総合・横浜平沼・横須賀明光・鎌倉・小田原・大和西
平塚江南の理数教育指定に対して小田原はグローバル教育指定。文系に進みたい人は小田原、理系なら平塚江南という住み分けが今後定着化する可能性も。
国際バカロレア認定推進校
【指定校(予定)】横浜国際
国際バカロレア協会(本部:ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラムを実施する高校。国際バカロレア認定校を卒業すれば、日本だけでなく世界各国の大学の入学資格や成績証明が与えられます。つまり、日本の高校を卒業した後の進路が、日本の大学だけではなく世界各国の大学に広がるということです。国際バカロレア認定校は、県教委ではなく文科省が認定します。今回指定校として予定されている横浜国際は、県教委と一緒になって文科省による認定を目指すということでしょう。
うまくいけばH31年度から認定校としてスタートするようです。それまでの間に入学者の選定方法を見直すという検討事項もあるので、もしかすると横浜国際の入試方法が今後変更されるかもしれません。
ちなみに、現在日本の公立高校の中で、国際バカロレアとして認定されているのは東京都立国際高校のみです。
インクルーシブ教育実践推進校
インクルーシブ教育とは、障がいのある生徒を含む全ての生徒に対して、子ども一人一人の教育的ニーズにあった適切な教育的支援を「通常の学級において」行う教育のことです。ここでは言及しませんが、いろいろと問題が山積みだと思います。入試とかどうするんだろう。
【指定校】茅ヶ崎・足柄・厚木西
H29年度より1期生入学が予定されています。1期生ということは、障がいのある生徒が特別枠として入学するということでしょうか。まだ不明点が多いです。
クリエイティブスクールの新たな設置
現在指定されている田奈・釜利谷・大楠に加え、新たに2校のクリエイティブスクール化が決まりました。クリエイティブスクールとは、中学校の成績は考慮されず、また学力試験も行わない、面接+小論文(作文)のみで入試が行われる高校のこと。中学時代になかなか登校できなかった生徒や、学力不振により成績が低い生徒を対象とした高校です。
【新たな指定校】大井・大和東
噂通り、大井高校がクリエイティブスクールに指定されました。これにより、今年度は大井高校の入試は通常通り行われますが、来年度からは面接と作文だけの入試になります。うちの近所の中学校の成績不振の生徒たち、ますます勉強しなくなるのではないかという懸念があります。
新しいコースが追加される高校と既存のコースがなくなる高校
ここからは県立高校再編・統合についてのニュースです。今回の公立高校改革に伴って、新しく学科・コースが追加される高校と、既存の学科・コースが廃止される高校の全体像も明らかとなりました。
既存の専門コースが廃止される高校
荏田(体育コース)・生田(自然科学コース)・横浜南陵(健康福祉コース)・磯子(グローバルコミュニケーション)・高浜(福祉教養コース)・西湘(理数コース)・山北(スポーツリーダーコース)・有馬(英語コース)・綾瀬西(福祉教養コース)
これらのコースの募集はH28年度までで、H29年度からは募集が停止されます。つまりこれらの高校の各コースは、今年の募集で終わりということです。
ただ、注目するべき文言として、「学校全体の特色とした再編を行う」とあります。この文言から推測すると、たとえば西湘は理数コースがなくなる代わりに、学校全体が理数に力を入れたカリキュラムにするということでしょうか。いずれにせよ、コースは廃止される代わりに、そのコースの特色が学校全体として引き継がれるようです。
コースから専門学科としてされる高校
白山(普通科美術コース)→白山(美術科)、上矢部(普通科美術陶芸コース)→上矢部(美術家)、厚木北(普通科スポーツ科学コース)→厚木北(スポーツ科学科)
これらの高校は、普通科としてのコースから独立した専門学科として新たに配置され、普通科と各専門学科の2つの学科が設置されます。これまで以上に専門的に学んでいくカリキュラムになっていくでしょう。
学校全体の学科改編
●弥栄高校
(現在)国際科・理数科・芸術家・スポーツ科学科⇒(改編後)普通科・音楽科・美術科・スポーツ科学科
●吉田島総合
(現在)総合学科⇒(改編後)農業科・生活科学科
●小田原総合ビジネス
(現在)総合ビジネス科⇒(改編後)普通科・総合ビジネス科
これらの改編はすべてH29年度より開始されます。つまり、現在の形ではH28年度募集が最後ということです。
高校再編・統合が予定されている高校
さて、最後に今回の県立高校改革の目玉でもある、高校再編・統合に関する情報です。H27年12月時点で、次の高校が再編もしくは統合されることとなりました。
氷取沢高校+磯子高校が統合
H32年4月予定の統合後は、氷取沢の敷地および校舎を使用するとのこと。これに伴い、磯子高校ではH29年度に専門コースの募集停止、H30年度に全体の入学生の募集停止が決まっています。
統合後は、これまでの両校の特性を生かした、英語コミュニケーション能力と国際理解教育に取り組む高校にするとのこと。統合後の高校名は未定です。
横須賀明光+大楠が統合
H32年4月予定の統合後は、横須賀明光の敷地および校舎を使用するとのこと。これに伴い、横須賀明光では、H30年度より国際科の募集を停止します。なお、統合後は普通科と福祉科の2科が設置されるとのこと。普通科は大楠の特性を引き継いでクリエイティブスクールとなり、福祉科は横須賀明光の福祉科がそのまま引き継がれます。
三浦臨海+平塚農業初声分校が統合
統合後、普通科と農業科が設置され、農業科の教場として平塚農業初声分校が使用されますが、その他の校舎および敷地は三浦臨海を使用するとのこと。ちなみに、平塚農業初声分校は現在昼間定時制として生徒募集がなされていますが、H30年度の統合以降、定時制ではなく全日制として募集されるようです。
平塚農業+平塚商業が統合
統合後は、農業科・商業科の併設校となるそうです。なお、両校とも統合による募集停止は行わず、H29年度以降に両校に入学した生徒については、新しい統合校の卒業生とされるそうです。敷地および校舎は、平塚農業を使用します。
弥栄+相模原青陵が統合
上でも述べたように、H29年度から弥栄高校の学科が再編されます。学科再編は、相模原青陵と統合することを前提とするもののようです。この統合に伴い、相模原青陵はH30年度以降の募集が停止されます。敷地および校舎は、弥栄高校を使用します。
まとめ
今回の高校改革計画案、内容こそ盛りだくさんですが、まだまだ机上の空論で実情が伴っていない感が拭えません。実施するにあたり、クリアしなければいけない問題や検討事項は山積しているはず。「とりあえずやってみてから考え、ダメだったらやめる」というのがこれまでの神奈川県の特徴でもあるので、全ての計画が上手く軌道に乗るとは考えていません。しばらくは注視しておこうと思います。
今年受験を迎える中3生はもちろん、中2生・中1生も、近所の高校が何に指定され、どういう方向に向かっているのか、しっかりと情報を追っていく必要性はありそうです。