日本最大級の教育IT展示会に参加してきたわけだが。

2015年5月20日

今日は、朝から教育ITソリューションEXPOに行ってきました。教育に関係するITの展示会で、おそらく日本最大級のものです。何年も前からずっと行きたいと思っていたのですがなかなか予定が合わず、今年念願かなって初参加となりました。
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いやぁ、凄いですね。最近のICTの技術はここまで進んでいるのかとビックリしてしまいます。まるで浦島太郎状態です。たとえば、タブレットと電子黒板を利用すると、クイズ番組の「平成教育委員会」さながらのことができてしまうんです。いくつかのブースでICTを使った模擬授業も体験してきましたが、授業を受けているというよりも、クイズ番組の解答者にでもなっている気分でした。

最先端の技術に関心する一方で、これらのICTを駆使することによるデメリットもいくつか感じたのも事実です。「ウチの製品と技術を使えば、めちゃくちゃ楽しい授業ができますよ」と四方八方から営業されましたが、確かに楽しい授業はできるかもしれないけれど、楽しいと力のつく授業は必ずしもイコールではありません。特に、ウチは塾です。塾は、楽しい授業が求められているのではなくて、学力が上がる、成績が上がる、志望校に合格する授業をするのが使命ですからね。「授業は楽しいけれど、成績は上がらない」では本末転倒なのです。

今日は、展示会に行ってみて感じた、ICTを使った教育についてのメリットとデメリットを塾屋としての視点から書いてみます。

メリット

授業が面白い

冒頭にも書いたように、生徒1人につき1台ずつタブレットを持たせて電子黒板と併用した授業は、まるでクイズ番組に参加しているような錯覚さえおぼえるほど楽しいです。テレビでやっていることと同じようなことを体験できるわけですからね。生徒はめちゃくちゃ食い付いてくるでしょう。紙ベースのアナログの授業よりも、意欲的に授業に参加する生徒は間違いなく増えると思います。

授業が分かりやすい

電子黒板やタブレットなどのICTを駆使すれば、授業が分かりやすくなることは間違いないです。ICTの一番良いところは、“ビジュアル化”できることにあります。教科書を読んだだけではピンとこないことも、動画を見れば一発で理解できるし、図形を動かしてあげることで直感的に理解できるようになります。

また、生徒1人につき1台ずつタブレットを持たせれば、授業内で瞬時にいろんな人の解答や考え方を共有できたりするので、紙ベースのアナログの授業よりも多角的な学習ができるでしょう。

時間の短縮になる

教える側も生徒側も、ICTを利用すれば大幅な時間の短縮が見込めます。いつもは黒板やホワイトボードに書いていたモノを、あらかじめ準備しておいて電子黒板に投影すれば、板書する時間が大幅に短縮することができます。生徒側にとっても、タブレットで勉強したものをそのまま画像として保存し、ストックしておけばいいので、黒板の板書をノートに写す手間を省くことができます。

他にも、指名された生徒が黒板に答えを書きにいくような、特に学校でよく見られる光景があるじゃないですか。そういう時間も短縮することができるので、とても効率よく授業をすることができるでしょうね。

デメリット

学びの本質的な面白さではない

先ほどメリットの1番目に挙げた「面白さ」は、あくまでもゲーム性の面白さであって、学びの本質的な面白さではありません。たしかに、タブレットと電子黒板を利用したクイズ番組的な授業は面白い。だけどそれは、非日常的な珍しさからくる面白さです。もしも、将来ほとんどの学校や教育現場でICTが導入されて、クイズ番組的な授業が珍しいものでもなんでもなく、日常になったとしたら、それでも生徒たちは面白いと感じるかどうかは疑問です。

タブレットを使うから、クイズ番組みたいだから面白いと感じさせるのは、教育の観点からしてどうなのかと個人的に思います。タブレットも電子黒板も使わなくても、教科の本質的な面白さを伝えることはいくらでもできるワケだし、その面白さを伝えるのが本来の教育なんじゃないのかなと。たとえば昨日紹介した「生物と無生物のあいだ」は、ただの紙の本で、そこには動画もなければ挿絵さえもほとんどないけれど、ちゃんと生物学の面白さは伝わってくるわけです。

読解力や想像力が乏しくなる

実際に展示ブースで模擬授業を受けてみて、コレを一番感じました。タブレットや電子黒板を駆使するということは、デジタル機器の強みである“ビジュアル化”の恩恵を多いに受けるということです。つまり、生徒は“視覚的”に理解することが機会がこれまでよりもずっと多くなります。

これまでだと、教科書を読み込むことでようやく理解していたことを、目の前の鮮やかな画像をパッと見るだけで理解できるようになる。これまでだと、頭の中で一生懸命想像しながら図形を動かしていたものを、目の前で実際に図形が動いているのを見れるようになる。これが続くと、読む力や想像する力は格段に落ちていくだろうことが容易に想像できます。実際、今日の模擬授業でも、「見る」作業がほとんどの割合を占めていて、何かを読んだり想像したりする作業はほとんどありませんでした。

いくら教育現場のICT化が進んでも、試験はすべて紙の上に書かれています。試験中、生徒は紙の上の問題を読んで書かれている内容を理解し、紙の上の動かない図形をじっと見ながら想像力をはたらかせて問題を解かなければいけない。知識を得るための本だって、たとえ電子書籍で読むのであっても紙の本で読むのであっても、「読む」という作業が必要なのは変わりない。ところが、ICT化が進めば進むほど、読み込む時間や想像力をはたらかせる時間は削られてしまうので、試験に必要な力が養われにくくなるでしょう。

タブレットに書き込むのはかなりストレスフル

いくら最近のタブレットが進化してきたとはいえ、やはりタブレットに何かを書き込むのは非常にストレスを感じます。ひらがな一文字、漢字一文字くらいなら全く問題ないのですが、タブレット上で複雑な計算をしたり、100字を超える長い文章を書いたりすることなど、とてもじゃないけれど無理です。たったコンマ何秒かのズレが非常に気になったり、硬化ガラスの上でコツコツと音を立てながらペンを走らせながらだと、とてもじゃないけれど滑らかに書くことはできません。いくらデジタル機器が進化したとしても、こと“書く”ことに関しては紙に勝るものはないでしょう。

タブレットを授業でフル活用しようとなると、どうしても選択肢の問題が多くなったり、一問一答的な問題になったりと、書くことを極力省くような問題設計になってしまいます。入試などの試験問題では、書く力を今までよりも求めているのに、デジタル機器を利用するだけのために、授業では書くことを極力省く問題ばかり解いていれば、本末転倒も良いところです。

まとめ

なんだかデメリットの面ばかり強調してしまいましたが、要は使い方だと思うのです。うまく利用すれば、学校でも塾でも教育的効果はあると思いますが、ICTに“使われて”しまえば、ゆとり教育以来の悲惨なことになる恐れも多いにあります。で、問題は、うまく利用できる先生がどれくらいいるのかということになります。

ICTなんて、ただのツールです。それこそシャーペンや消しゴムと同じです。ツールが教育の主役になることなど絶対にあり得ないわけです。どんなに高価なシャーペンを使ったとしても東大生が使っているノートを買ったとしても、それだけでは頭が良くならないように、どんなに素晴らしいツールを持ったとしても、教育の内容そのものが変わらなければ子どもの学力は向上しません。なぜか政府は公立の学校へのタブレット導入に躍起になっていますが、そんなカネがあれば、学校の先生を1人でも2人でも増やしたり、1クラスの定員をもっと減らした方が教育的効果はあるのではないかと思います。

でも、書画カメラと小型の電子黒板は欲しいなぁ。買っちゃおうかな。どうしよう。