某大手塾の恒例の自己採点結果が出ました。他塾のことなので、リンクは貼りません。英語と理科の平均点が去年よりも下回っていたみたいでした。私やうちの塾生の実感がなかっただけで、やっぱり難化していたんですね。この記事の中で、今年は去年よりも各高校の平均点は上がるだろうと予想しましたが、色々な情報を集めているうちに、どうやら下がりそうな感じがしてきました。ある筋では、理科の平均点がもしかすると30点を割ってしまうのではないかというトンデモ話まで出ています(2014年度の県平均が約38点)。ウソか本当か分かりませんが。
ちなみに、うちの塾生の理科の自己採点での平均は76.3点でした。残念ながら5教科の中では一番低いですが、理科が苦手な子でも60点を切ることはありませんでした。2014年度の塾生の理科の平均点は約68点(開示得点)です。うちの塾だけで言うと、平均点は8点ほど上がっています。
さて、今日は理科だけにページをさいて、2015年度入試の講評と、今後受験を迎える中1中2生へのアドバイスをしてみようと思います。特に中1生中2生は穴が開くほど読んでください。
理科「基礎問題でいかに点数を稼げたかどうか」
難しい中にも基礎問題はある
これだけ「難しい」と騒がれている今年の理科ですが、当然のことながら問題すべてが難しいというわけではありません。中にはしっかりと、基礎的な問題も含まれています。
しかも、2014年度の理科の問題よりも、今年の問題の方が基礎問題の数は多かったと思います。私の分析では、2015年度の理科の問題で基礎問題にあたるのが、低く見積もって100点満点中63点ありました。難しいとされる問題をスルーしたとしても、基礎がしっかりとできていれば60点は取れるということです。
これらの基礎問題をいかに取りこぼさずに正解できるかが鍵だと思います。
基礎=簡単ではない
ただし、誤解してはいけないのは、決して「基礎問題=簡単」という方程式はあてはまらないということです。教科書で太字になっているような重要用語をただ知っている、基本的な問題が解けるだけでは、基礎を理解していることにはなりません。
ここが大切なポイントなので、例をあげて説明します。
基礎問題に徹底的に取り組んできたAさんと、基礎は簡単だからと一度だけ解いて終わったBさんがいたとしましょう。この2人が基礎問題のテストをすると、Aさんは10分でササッと解いて100点を取り、Bさんは思い出しながら30分で解いて100点を取りました。
結果だけを見ると、両者とも100点満点なので違いはありません。ただし、今回の入試のように、基礎問題と応用問題が混在するテストだったらどうでしょうか。
おそらくAさんは、基礎問題は秒殺で解き終わるので、応用問題にじっくりと取り組む時間があるでしょう。ただし、Bさんは、基礎問題だけでいっぱいいっぱい、または基礎問題ですら形式が変われば間違ってしまい、応用問題に取り組む時間も余裕もないでしょう。両者の点数に明らかに差がついてしまうのは目に見えています。
つまり、基礎を習得するということは、「基本問題が解ける」とか「重要用語を覚えている」ということではなく、恐ろしいほどの量の基礎を反復していくなかで、無意識に基礎問題が解けるレベルにまで落とし込むということです。
2けたや3けたのかけ算の筆算を解くためには、九九が無意識のうちにスラスラ出てくることが必要なことや、分数の複雑な計算をするのに、公倍数が無意識に浮かぶことが必要なことと同じ理屈なのです。
このような基礎の習得を怠っていたならば、おそらく去年や今年の神奈川県の理科は、悲惨な点数になってしまいます。逆に言えば、基礎を無意識レベルに落とし込んできた人ならば、「確かに難しい問題はあるけれど、全体的には簡単」という感想を持ったことでしょう。
神奈川の理科の本当の難しさ
では、基礎問題以外はどうでしょうか。
2〜3日前の記事でも少し触れましたが、あの問題の難しさは厳密に言えば「理科的」な難しさではありません。必要な知識や理科的な思考は基礎的なものです。何も、中学校の学習指導要領の範疇を超えた知識は必要ありません。あれは、「情報活用的」な難しさです。与えられた図や絵、条件をすべて読み取り、それらをフルに活用して、また持っている知識(理科だけでなく数学の知識も)と組み合せて問題を解く思考が必要なのです。いわば、特色検査的な難しさとも言えます。
特色検査対策はもちろん、公立の中高一貫校受験の適性検査を経験している人は、このような問題に強いと思います。または、国私立の理科の入試問題でも、理科と数学の融合問題や、情報を活用した上で解く問題が多く見られます。このような、情報を活用して問題を解くというトレーニングを積んできたかどうかがモノを言う問題でした。
問5の物理の問題は、理科と数学の融合問題で、20年くらい前の典型的な理科の問題です。斜面上の物体が受ける力の計算は、私立入試ではよく出題される内容でした。
問7の生物、問8の地学の問題は、まさしく情報活用力がモノを言う問題です。問7の実験結果を仮定して推理する問題は、2014年度の電池の問題と同じパターンの思考です。問8の地学のウとエなんて、情報活用力の差がモロに出た問題でしょう。
今後の受験生へのアドバイス
基礎が大事という本当の意味を理解しろ
何度も触れてきたように、「基礎が大事」という本当の意味を理解しましょう。とりあえず教科書の太字くらい覚えておこうか、学校のワークが全部解けたから大丈夫というような表面的な勉強をだけでは、確実に入試理科で50点も取れません。せいぜい20〜30点が関の山でしょう。もちろん、教科書の内容を覚えていること、学校のワークができることが大前提にはなります。事実、教科書の内容すら完璧でない受験生もたくさんいるくらいです。
基礎問題は1度やっただけでは身につきません。3日後に忘れて終わりです。どんなに数学が苦手な人でも、九九を忘れたことはないでしょう?なぜなら九九は無意識レベルまで落とし込んでいるからです。理科も同じです。基礎問題を反復し、何も考えなくても解けるようになるまでになりましょう。「何も考えなくても」というのは、「十分知っているから思考を凝らさなくても」という意味です。答えを丸暗記しているということではありません。
中1中2のうちからこのような勉強をしましょう。受験生になれば、他の科目の勉強にも時間がかかります。理科の基礎ばかり反復しているわけにはいきません。
受験生は実践的な問題を反復
バカの一つ覚えみたいで申し訳ないのですが、受験生は全国入試問題正解などの実践的な問題を単元別に反復し、基礎を実際の入試問題中で生かせる力を身に付けましょう。こういう問題では、基礎をこのように使って解くという、解法パターンを身につけるのです。この解法パターンだって「基礎の習得」にあたります。ある意味数学と同じですね。
うちの理科の入試対策授業は、全国入試問題を使って類似パターンの問題を死ぬほど解きます。でも、「またこれやるんですか。もう良いです。飽きました。」という生徒はいません。皆、類似パターンを反復すればするほど点数が上がっていくことを実感しているからです。もしかしたら心の中ではそう思っているのかもしれませんが、そう思えるようになってこそ基礎が身についたということになるのです。
難しい問題を解け
「基礎を身につけるために、難しい問題を解く必要はない」とよく言われますが、これは大ウソです。難しい問題を解いてこそ、基礎がより深く理解できるようになります。
基礎的な問題は、先ほどのBさんのように表面上だけしか理解していなくても解ける問題が多いです。でも、難しい問題は、表面上の理解だけでは絶対に解けません。難しい問題を解き、答えまでの道のりをひも解いていく中で、基礎の深さを思い知らされることでしょう。それを繰り返していくことで、基礎がより深く理解できるようになるのです。例えば今回の理科の入試問題で言うと、問1の(イ)や(ウ)です。これらの問題は基礎だけで解けますが、深い基礎の理解が必要です。基礎問題だけを100回解いたところで解けるようにはならないでしょう。難しい問題を解いて、浮力とは何なのか、なぜ物体が浮き沈みするのかなどを深く理解していないと解けません。
また、難しい問題を解けば解くほど、理科の基礎の深さがどんどん分かってくるので、理科が面白く感じられるほどです。事実、うちの塾生も、理科の全国入試問題集を解くのが大好きで、理科が苦手だった子でも「面白い」と言いながら解いていました。
理科は、難しさの中にこそ、面白さがあるのです。
まとめ
講評というより、ほぼアドバイスになってしまいました。2016年度以降もこのような難しい傾向がおそらく続くことになるでしょう。そうすると、「理科は捨てる」と言い出す人が増えてくると思います。これって、逆に大チャンスです。理科で点数を稼ぐことができれば、圧倒的に他の受験生よりも有利になります。
理科は勉強すればするほど、面白い科目です。入試問題が難しくなったのは、むしろ良い傾向です。理科の面白さに気付くまで、理科を勉強しまくってください。