進学校?部活校?秦野高校の現実

昨日の厚木高校に続き、今日は秦野高校へ訪問。うちの塾からもこれまで6名が秦野高校に進学しているので、そういう意味では随分お世話になっている高校だ。

秦野高校の代名詞と言えば部活動だが、学力進学重点校としての勉強の方はどうなんだろうか。今回の秦野高校訪問のまとめ記事は、その視点から書いてみようと思う。

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秦野と言えば部活動・・・?

秦野高校の特徴といえば、やはり部活動が盛んなこと。多くの運動部が常に県上位や関東大会出場、さらには全国大会出場を目標に、日々練習に取り組んでいる。秦野の現在の部活動加入率は95%ほどということなので、ほぼ全ての生徒が何らかの部活動に参加していることになる。もちろん県内の他の公立高校でも部活動加入率は90%を超える学校も少なくはないが、秦高生の部活動に対するモチベーションは他の公立高校よりも高く、練習も本格的に行われているようだ。

秦野高校は2010年に県の学力向上進学重点校に指定されている。現在学力向上進学重点校に指定されている県内公立高校は全部で18校あるが、秦野高校は18校の中でも追浜の次に偏差値が低く、重点校の中では比較的入りやすい高校だと言える。ただ、やはり進学実績は他の重点校と比べると若干寂しい感じがするのは否めない。昨年度の進学実績(現役)は、国公立大学に15名、早慶上智に19名という結果で、現役の国公立大学だけで見ても小田原高校の74名、厚木高校の95名と大きく差をつけられた結果になった。

変わり始めている秦野高校

二兎を追うものは二兎を得る教育

ただ、今年の4月から新しく秦野高校に着任された神戸校長先生は、「数年前の秦野高校とイメージを変えようと動いています。」とおっしゃった。部活動にやや重点を置き過ぎている秦野高校の現状から、部活動にも勉強にも力を入れていく方向へと変換している最中という。

神戸校長:「我々は、これを“二兎を追う教育”と呼んでいます。世間的には“二兎を追うものは一兎も得ず”と言いますが、現在全国の進学校では“二兎を追う教育”を当たり前に実践している高校が多数あります。部活動は頑張るけれども、勉強はちょっとというのは文武両道ではありません。部活動も頑張るけれども、勉強も頑張る。それを新入生に対しても秦高を目指す中学生に対しても訴えています。」

明確な数値目標を追う

実は前任の時乗校長(現湘南高校校長)の時代から、秦野高校の校内改革は始まっていた。時乗校長が「数年かけて秦野高校を国公立大に40人が進学するような高校にする」という明確な数値目標を掲げ、生徒の成績をしっかりと伸ばし、進学実績に繋げられるようにいろいろな取組みがなされていたという。

時乗校長から現在の神戸校長に変わり、先ほどの数値目標の他にさらに神戸校長が掲げた数値目標は、「現高3生の4月時点の志望校に対する合格率を80%以上にする」ということ。さらにそれより下の学年に対しては、2年生の1月に「第一志望宣言」をさせ、高2の1月の志望校に対する合格率を80%以上にしたいとおっしゃっていた。

「第一志望宣言」では、生徒は高校2年生の1月の時点で、クラス担任・保護者・進路指導の先生にいろいろなアドバイスをもらいながら第一志望を決定する。たくさんの人を巻き込み、承認を得た上で第一志望を決定していくので、万が一その第一志望を諦めるときもまた承認を得た一人ひとりの承認を得なければいけないという仕組み。

神戸校長:「第一志望宣言により、行ける大学に流れていくのではなく、行きたい大学に対して最後まで一生懸命努力することの大切さを生徒に伝えていきたい。」とのことだ。

教師用進路実現のための指導マニュアル作成

秦高を変える!という目標のもと、前任の時乗校長と現在の神戸校長が共同してつくりあげたのが、教師用の「進路実現のための指導マニュアル」だ。「外部に公開するものではないと思うのですが・・・」とおっしゃいながらも、「秦野高校の全てを知ってください」と、全てコピーしたものを資料として渡していただいた。

1年生用、2年生用、3年生用のそれぞれがあり、どのようにクラスを活性化させるか、授業レベルはどう設定するか、進路指導はどう行うか、入試対策では何を指導するかということだけでなく、学習戦術のポイントなどが月別に非常に細かく書かれてある。このマニュアルを見たとき、「すごい執念だな」と思った。

神戸校長:「それぞれがバラバラに指導していたことをマニュアル化して統一し、全教職員が進路指導に対して組織的に動けるようにしていく目的で作りました。」とのこと。

現高3から始まった5つの進学コース選択

現高3生から、それまでの文系理系選択を、より大学受験に対して具体的に学べるような「5つのコース」選択に変わった。5つのコースとは次の通り。

  • 国公立文系型
  • 私立文系型
  • 薬・医療・農水型
  • 国公立・難関私立理系型
  • 私立理系型
  • このようにコースを具体化することにより、それぞれの目的により特化したカリキュラムで勉強できるという仕組み。ちなみに現在の高3生では、私立文系型が4クラスと最も多く、次いで国公立・難関私立理系型が2クラス、あとの3つはそれぞれ1つずつ(中には混合クラスもある)とのこと。2代の校長先生に渡って続く校内改革がこれから上手く機能すれば、国公立文系型や国公立・難関私立理系型に多くの生徒が集まるようになるかも。

    秦高の入試

    特色検査はするつもりなし!

    多くの学力向上進学重点校が取り入れている特色検査だが、秦野高校は特色検査を実施していない。今後特色検査を実施する予定はあるかを尋ねると、「実施するつもりはありません」との明確な答えが返ってきた。

    神戸校長:「特色検査を実施すれば、秦野が現在持っている魅力が失われてしまうことになりかねない。厚木や小田原のように特色検査を実施すれば、純粋に秦野を志望していた中学生が秦野を避けるようになるかもしれない。秦野高校は、入学の時点で間口を狭めるのではなく、高校の3年間でしっかりと育てていきたい。」

    とのことだ。

    面接について

    昨年度の入試では、受検者全員が面接試験で約90点〜100点をとっているとのこと。秦野高校も厚木・湘南・小田原高校と同様、面接によって差がつくことはほとんどなさそうだ。

    ただし、やはり部活動を重視する高校なので、「中学時代の部活動の実績が良い生徒は、意欲があると面接で評価している」とのこと。といっても点差は10点くらいなので、これもあまり気にすることはなさそう。

    とにかく校長先生がアツい

    神戸校長先生と1時間30分ほど話をしていて感じたことは、一度語りだすと止まらないほど、とにかくアツい先生だということ。いろいろなことを話していただいたのでまとめるのが難しいのだが、「人を育てたいんだ!」という想いがビンビン伝わってくる。

    先生が話されたことを文章としてまとめるのが難しい分、神戸校長名言集としてリスト化してみることにする。

    神戸校長名言集

    過去は変えられないけれど、未来は変えられます。私は、秦高の生徒から「どうせ」とか「しょせん」とかというネガティブな言葉をなくしたいんです!

    本気・実践・気付きだけが人を前に進めるのです。

    入学した生徒のレベルがたまたま低いから実績がでないとか、たまたま高いから実績が出たとか、そんなんではダメなんです。せっかく秦高を信じて入ってきた生徒を高校が伸ばさなきゃ、詐欺じゃないですか。詐欺ですよ詐欺!

    「楽しい学校」とよく言いますが、それは違うなと思います。楽しいと面白いは違うんです。面白いということは、ワクワクするということなんです。教職員にもよく言っています。楽しい授業ではなくて面白い授業をするようにと。

    高校は、中学と大学のただの中継地点とは思っていません。高校3年間で、きちんと人を育てる教育をしなきゃダメなんです。3年間で子どもは伸びるし、モノの見方も変わります。私は、当たり前のことを当たり前にできる人間を育てたいんです。

    子どもっていつ花開くか分かりません。高校の3年間で花開く子もいれば、大学に行ってから、あるいは社会人になってから花開く子もいます。いつ花が開くか分からないけれど、種を蒔いてやることを怠ってはいけないと思うんです。教育って種まきと同じじゃないですか!

    他にもいろいろあるのだが、これだけでも十分校長先生のアツさが伝わったのではないでしょうか。

    まとめ

    「秦野高校=部活校」というイメージがいい意味でも悪い意味でも定着してしまっている今、学力進学重点校の1つとしてみれば、勉強の方が少しなおざりになっている感があるのは否めない。まだ神奈川の入試制度が学区によって守られていたころ、秦野高校は秦野地域のトップとして地域の教育をずっと支えてきた。旧学区のトップ校として、地元の優秀な人材を大学に輩出し続けてきた。

    その意地とプライドを取り戻すべく、前校長・現校長が必死に改革をしている途中だ。小田原や厚木には少し手が届かないが、それでも難関大学進学を諦めない高い志を持った中学生の良い受け皿となるように、秦野高校の校内改革が上手くいくよう見守っていきたいと思う。