今年の公立高校訪問3校目は、神奈川県央地域のトップを走り続ける厚木高校。うちの塾からも2014年度に2名、2013年度に1名の卒塾生を厚木高校に送り出している。
厚木高校の歴史は古く、今年で創立112年。県内屈指の伝統校として、湘南高校と同じく多くの卒業生が様々な世界で活躍されている。現衆議院議員の甘利明氏、漫画家のさかもと未明さん、女優の名取裕子さん、相棒の「米沢さん」こと六角精児さんも厚木高校の卒業生。最近だと、超人気バンドのいきものがかりの後ろの男性ギタリスト2名も厚高OBとして有名だ(ちなみにきよえちゃんは海老名高校出身)。
このように経済界・政界・官界だけでなく、芸能の分野などでも幅広く卒業生がご活躍されている厚木高校の今に迫るべく、校長先生はじめ、現役の先生方2名にお話を聞いてきたので、その内容をまとめてみたい。
厚木高校の魅力は「新旧の見事な調和」
県央地域のトップ校としての伝統
今年で創立112年を迎える厚木高校は、昔から県央地域のトップ校として圧倒的な存在感を放ってきた。湘南高校を訪問したときにも感じたことだが、やはり伝統の力は偉大。生徒や教師、厚木高校に集う全ての人間を112年の“伝統”が支配し、コントロールし、創り上げているような感覚を受ける。
厚木高校の校風は「質実剛健」。真面目で堅実な生徒が多いが、その中でもどことなく「ゆるさ」も感じられるのが厚高生の特徴だと思う。厚高生の部活動加入率は95%程度。しかも、全国大会出場常連の強豪の部活も多い。勉強ももちろんだが、部活や学校行事にも積極的に取り組む。「質実剛健」の中にいい意味で「ゆるさ」が混在している独特の校風だからこそ、進学校ながらも芸能の分野に多くの人材を輩出してきたのかもしれない。
厚木高校の新しい挑戦
ただ、厚木高校が他の伝統校とひと味違うところが、古き良き伝統を守りつつ、常に現代の時代感覚に合わせた新しいモノを積極的に取り入れようとしていることだ。平成25年にスーパーサイエンスハイスクール(SSH)、翌年平成26年には英語での学習指導実践研究協力校の指定を受け、「グローバル教育」と「サイエンス教育」に特に力を入れた教育を実践しているとのこと。
文系・理系すべての生徒に科学的リテラシーを
なかでも厚木のSSHの取組みは目を見張るものがある。SSHに指定されている高校は現在全国に202校存在するそうだが、多くの学校は理系の生徒のみ、またはSSH専用のクラスのようなものを作って、一部の限定された生徒に特化したサイエンス教育を実施しているようだが、厚木高校のポリシーは「文系・理系すべての生徒に科学的リテラシーを育成する」とのこと。
1年生から生徒全員に「ヴェリタス」という科学的な探求活動を行う厚高オリジナルの単位を履修させ、その中で全員にサイエンス教育を実践する。SSHの運営指導員の講師の先生方も、東大や横浜国立大、東工大の教授やJAXAの研究員など、豪華そのもの。そういった科学の第一人者から直接指導を本気の受けられるのも、SSHに力を入れている厚木ならでは。
しかも、厚高のサイエンス教育の課題発表・プレゼンテーションなどは、1人1人すべて英語で行われるという。また、来年度からは、アメリカにあるサイエンス教育に積極的な高校に生徒を派遣して、現地の高校生と一緒に科学の研究成果を発表し合う取組みも行っていくとのこと。
佐藤校長先生:「学力向上進学重点校とSSH、グローバル教育は切っても切り離せないものだと思っています。大学入試のあり方、英語教育のあり方が全国的に見直されようとしている今、厚木高校も積極的にグローバル教育に力を入れ、国際社会のリーダーを育成していきたいと思っています。」
このように、厚木高校は112年の伝統の上にあぐらをかいているだけでは決してなく、伝統を大切にしながらも今の時代に応じた新しい教育カリキュラムを積極的にどんどん取り入れて実践している。この「新旧の調和」が厚木の最大の魅力だと感じた。
現役で国公立大に95名合格!厚木高校の学習指導
2014年度の実績は県内公立2位!
2014年度の大学入試では、国公立大学に95名が現役合格したという。この実績は、県内公立の中では横浜翠嵐に続いて2位!なんとあの湘南高校も追い抜かしちゃったとか(湘南は現役合格にこだわらない進路指導を実践されている)。卒業生が300人くらいだから、約3人に1人が国公立大学に進学したということになる。
あまり知られてはいないが、神奈川県内だけでなく全国的に公立高校の進学校の大学現役合格率は実は低い。決して公立がダメだというわけではなく、これには色々な原因が絡み合っているのだが、その中でも厚木のこの現役での国公立大の実績は大したものだと言える。
高2生までにセンター試験科目を全て履修させるカリキュラム
厚木高校は、高2の終わりまでに国公立大合格に必須のセンター試験に必要な科目を全て履修させるカリキュラムを組んでいる。高2までにセンターの範囲をすべて履修しておくと、高3の1年間を2次試験の勉強やセンター演習などにたっぷり使えるからで、中高一貫校の私立高校なんかではよく見られる手法だ。
これを公立でやっている学校は意外に少ない。中高一貫の私立校は6年間の長いスパンがあるからこういうカリキュラムができるわけで、入学から卒業までたった3年しかない公立高校で私立校並みのカリキュラムを実践するのは至難の業だったりする。生徒がハードに勉強しなければならないことはもちろん、教師側にもそれをこなす力量が必要だ。
私立高校並みのハードなカリキュラムをこなすために、生徒はガッツリと勉強させられる。学校側も週末課題等を出したり補講をしたりと、生徒の勉強に対するサポート体制は組織的にきちんと行われているようだ。
厚木高校は公立高校にして、私立高校並みのカリキュラムを実践している数少ない進学校。これが、公立高校にしては脅威の現役合格率を誇る要因の1つだと思う。
予備校さながらの受験対策講座・講習
もう一つの厚木高校の強みは、受験対策講座や講習が充実していること。夏休みの長期休業中は、連日朝から晩まで「難関私大受験のための○○講座」とか「国公立大合格のための○○講座」など、予備校さながらの講座が開かれていて、当然生徒は自由に受講できる。また、大学入試が差し迫った高3の秋頃からは、午後の授業は全て何らかの受験のための特別講座が開かれているようだ。
さらに、進路指導にも力を入れていて、ベネッセの合格判定システムを授業を担当しているほとんどの職員が使えるように導入されている。これによって、予備校さながらの詳細な合否判定をもとに進路指導ができるという仕組み。
理系・文系の割り振りは3年から
高2までは全生徒統一のカリキュラム。文系・理系に本格的に分かれるのは高3から。つまり、文系選択者であっても、理科は物理・化学・生物の3科目、数学は数ⅡBまで徹底してやるというのが厚木高校の指導方針。
数学担当の林先生:「文系・理系関係なく、厚木高校のすべての生徒に幅広い教養をつけてもらうことを第一の目的としています。」とのこと。
SSH指定校なので理系色が強いかと思いきや、意外にも現在のところ文系理系の割合は半分ずつといったところ。ただ、厚木のSSHがだいぶ世間一般に浸透してきた現在は、やや理系志望者の割合が増えてきているようだ。
厚高の入試について
特色検査は学力検査の延長上という位置付け
厚木高校は旧入試制度の頃、進学校の中で唯一「独自入試」を実施してこなかったということで有名。「難問ばかりを勉強するのではなく、基礎的な勉強を重視してもらいたい。」という厚木高校のメッセージだったのだろう。新入試制度になった今も、そのポリシーは変わらない。
現在、他の進学校と同じように内申、学力検査、面接に加えて、特色検査を入試に取り入れている。ただ、厚木高校の特色検査は、他の進学校のような難解なものではなく、どちらかというと5科目の勉強の延長線上にあるような性質のもの。
林先生:「学校説明会でも中学生に話をしているのですが、特色検査に対して何か特別な勉強をするのではなく、その代わり通常の学力検査の勉強をしっかりとやってもらいたいと思っています。厚木の特色検査は、5科目の学力検査の延長上という位置付けです。」
あくまでも基礎基本をしっかりやる。どれだけ高度な学力も、すべては基礎基本の土台の上に成り立っている。厚木高校の基本を大切にする姿勢は、昔も今も変わることはない。
面接について
林先生:「しっかりと面接の準備をしていることが見られるのなら、そこまで面接で差をつけるつもりはありません。」
面接については湘南や小田原同様、しっかりとした質疑応答ができればあまり差がつくことはなさそう。中学時代に何を頑張ってきたか、高校に入ってから何を頑張っていきたいか、なぜ厚木なのかというところをハッキリ話すことができれば問題はないと思われる。
まとめ
質実剛健の精神の中にどこか心地よい「ゆるさ」が存在する伝統校。サイエンス教育やグローバル教育など、常に新しいことに挑戦し続けている挑戦校。私立高校や予備校さながらのカリキュラムを実践している進学校。
厚木高校は様々な顔を持つ。様々な顔を持つ厚木高校だからこそ、多種多様な生徒が存在し、独特の校風をつくりあげているのだと感じる。3人の先生方と話しているときも、それを感じた。「厚木高校はこうあるべき!」「厚高生はこうでなければいけない!」「これこそが厚木高校!」といった、押し付けがましさが感じられない。ソフトで、自由で、それでいて守るべきところはしっかりと守り、もちろん学力向上に対する想いはハンパない。
難関高だが、目指す価値は十分ある。厚木高校、勉強だけでなく青春も楽しみたいあなたに、最先端の科学教育を受けてみたいあなたに、ガッツリと大学進学を目指すあなたに、是非おすすめです。
ちなみに
学力検査延長型の厚木・小田原・平塚江南の特色検査対策が11月23日(日)から始まります。締め切りがもうすぐなので、厚木を目指している人は是非。