現在特色検査対策第2号の教材を鋭意作成中です。今回のテーマは『情報分析』。複数のデータを元に、与えられた設問を読み解いていきます。
データというのは、基本的にはただの数字の羅列であり、非常に無機的なものです。そこに、人間の知識や解釈を加えると、途端に有機的で意味を持つようになります。無機的なデータに意味を持たせるのが人間であり、データを取り扱う人間の解釈や知識の度合いが違うと、同じデータでも全く違う解釈がなされてしまいます。つまり、データというのは客観的性質を持つものでもありながら、どうしてもそこに主観が入ってしまうものです。
もう少し乱暴な見方をすると、自分の意見の正当性を客観的に証明したいがために、その人にとって都合の良いデータだけを引っ張ってきて、意見を論じることもできるということです。そのようなデータの使い方にだまされないようにするためには、どういう意図で、どんなやり方でデータをとったのか、データを結論に結びつける論旨に欠陥が無いのかなどをきちんと点検する目を養い、できるだけ客観的に数値を読み取る必要があります。第2号の情報分析の講座では、特色検査によく出題されるデータ問題の考え方だけでなく、データを点検する目や客観的な数値の追い方も含めて、学んでもらいたいと思います。第1号講座の「情報整理と論理的思考力」もそうですが、このような考え方は、社会で生きていく上で最も重要な思考法だと言えるでしょう。
さて、前置きが長くなりましたが、今日は2015年度の特色検査の平均点や標準偏差から、「差が付きやすかった特色検査と差が付きにくかった特色検査」を見ていきます。
データについて
データ調査方法
前置きでデータの扱い方の重要性についてを話したので、まずはきちんと今回使用したデータについての説明から始めます。今回のデータは、全県模試の主催者である伸学工房が発表した『2015年度神奈川県公立高校受験結果資料』という、神奈川県内の860塾の中3生約26,800人に入試後の追跡調査(志望校への合否・内申点・開示得点・併願先)から抽出したものです。高校側が正式に発表した数値ではなく、合否を含めて全受検生を調査したものではないため、正確な数値ではありません。また、合格者は積極的に得点開示請求に行きますが、どうしても不合格者で開示請求をする人が少なくなってしまうため、やや合格者に偏った数値になっているとも言えます。
データの見方
今回は、特色検査実施校のうち、筆記型の試験を実施している9校の平均点、サンプルの中での最高点と最低点、標準偏差をまとめ、標準偏差の高い高校から順にしてみました。高校ごとにサンプル数(開示請求で正式な得点が分かっている人数)の偏りがあるため、高校名の横に各高校のサンプル数を記しておきました。
標準偏差を簡単に説明すると、平均点との離れ具合であり、標準偏差が高い方が平均点との離れ具合が大きい=得点にバラツキ(差)があるということを意味します。つまり、この表の上の方の学校の特色検査ほど、得点差が激しいということです。
また、平均点±標準偏差の範囲の中に、サンプル数の3分の2が属することにもなります。たとえば、最も標準偏差が大きい希望ヶ丘で考えた場合、平均点±標準偏差=74.14±13.20=60.94〜87.34の間に、サンプル数の3分の2の生徒、つまり54人が属しているということになります。この表と計算から、だいたいの得点分布のイメージがつかめるのではないでしょうか。
では、じっくりと分析してみてください。
2015年度特色検査データ(標準偏差順)
高校(サンプル数) | 平均点 | 最高点 | 最低点 | 標準偏差 |
希望ヶ丘(81) | 74.14 | 95 | 44 | 13.20 |
横浜翠嵐(33) | 47.73 | 82 | 22 | 12.35 |
湘南(87) | 72.84 | 97 | 45 | 12.08 | 横浜サイエンス(75) | 73.4 | 94 | 44 | 11.86 |
小田原(103) | 54.22 | 84 | 23 | 11.39 |
厚木(82) | 53.2 | 76 | 24 | 10.79 |
柏陽(78) | 58.51 | 80 | 34 | 10.13 |
平塚江南(76) | 74.53 | 97 | 51 | 9.55 |
横浜緑ヶ丘(73) | 77.52 | 91 | 68 | 4.02 |
解釈
この表では、最も差が激しい高校が希望ヶ丘となっています。全県模試の調査では、横浜翠嵐のサンプル数が少ないので2位になりましたが、私の感覚だと、不合格者も含めたちゃんとしたデータでは横浜翠嵐の標準偏差はもっと高く、おそらく希望ヶ丘を抜くのではないかと思います。
湘南の平均点はやはり高いですね。バラツキも思ったよりもありません(実際はもう少し標準偏差は高くなると思います)。今年の湘南の特色検査は例年よりも簡単でしたが(作問者が変わったそうです)、湘南高校を受ける受験生は、あのレベルの特色検査できっちり7割くらいとってくるということです。
標準偏差が最も低いのは横浜緑ヶ丘です。この学校の特色検査は作文形式の問題ですが、ほとんど差を付けていないということが分かります。しっかりと書ききっていれば、余程のことがない限り平均点くらいはとれるのではないでしょうか。つまり、横浜緑ヶ丘の入試は、実質学力検査勝負だったと言うことになります。一方、横浜緑ヶ丘と似たような作文・プレゼンテーション型の横浜サイエンスフロンティアでは、しっかりと差を付けてきています。横浜サイエンスは作文(論述)以外の問題もあり、2015年度は全部で4問です。問題数が少ないことから、1問でも間違えたらその影響は相当大きくなるということでしょう。
厚木・小田原・平塚江南の3校を見てみましょう。厚木・小田原の平均点はどちらも50点代前半、平塚江南は70点代ということからも分かるように、平塚江南の特色検査はオーソドックスで得点しやすい問題になっているということが言えます。また、平塚江南の標準偏差は、作文型の横浜緑ヶ丘を除く8校の中で最も低いです。湘南と同じく(もちろんレベル差はありますが)、「特色検査はとれて当然」ということでしょう。平塚江南志望者は、2015年度の特色検査レベルで70点以上をとれるように仕上げる必要があります。
この表からは読み取れませんが、上の9校のうち、学力検査と特色検査の点数と最も相関関係があったのが小田原です。学力検査の点数が高い人は特色もよくとれているけれども、学力検査の点数が低い人は特色の点数も低く、他の高校よりも点数の逆転が起こりにくかったというデータがあります。特色検査の点数にバラツキはあるものの、だからと言って特色検査で大逆転勝利、あるいはその逆が最も起こりにくかったのが小田原高校ということです。
まとめ
冒頭にも書いたように、データ自体は無機的です。ここにどのような意味を持たせるのか、ここから何を読み取るのか。一度自分で考えてみましょう。私の言ったことを鵜呑みにするのでも良いし、疑ってかかるのも良いと思います。自分なりによく分析し、どうすれば良いのかを考えることが大切です。