今日から11月。季節はすっかり秋ですね。
さて今年も秋恒例の公立高校訪問の時期がやってきました。2016年度高校訪問の第1弾は、去年も1番目にお伺いした秦野高校です。
ちなみに、私が毎年こうやって公立高校へ学校訪問に伺えるのは、うちの塾も加盟している神奈川県私塾協同組合が各県立高校に中小塾対象の訪問・情報交換会を掛け合っていただいているからです。高校の中には、いくらこちらがお願いしても返事ひとつ返してくれないような、塾に対して非常に非協力的かつ閉鎖的なところもある中、秦野高校は毎年二つ返事で快く我々の訪問を引き受けてくださっているとのこと。
毎年複数の県立高校を訪れていますが、秦野高校ほど我々塾の団体に対してオープンかつ丁寧な対応をしていただける高校はありません。地域に開かれた高校を目指すという学校目標が、決してただのお飾りのお題目になっていないことが、こういうところからもうかがえます。
では早速、秦野高校の訪問レポートを始めます。
創立90周年を迎えた秦高の学校力
秦野高校は今年で創立90周年を迎えた。10月29日に実施された90周年式典には、現役生徒やその保護者だけではなく、多くの秦野高校OB・PTA・地域の人々が参加し、その盛大な盛り上がり様に教職員自身が驚かれたそう。
「今年創立90周年を迎えた秦野高校は、全国に2万3000人以上の同窓生がいます。そしてその同窓生の多くが、卒業した後も積極的に秦野高校を盛り上げようと、色んな形で関わってくれています。たとえばPTA広報誌『ひろはた』をご覧ください。一年に3回発行していますが、1回分の広報誌は22ページにも及びます。こんな充実したPTA広報誌は、他のどの公立高校にもありません。それくらい、たくさんの卒業生・PTAの秦野高校を大切に想う気持ちが強い。管理職としていくつもの高校を見てきましたが、こんなに地域の方や卒業生に愛されている高校は他にありません。」
と、自身も秦高OBである久保寺副校長はおっしゃった。
確かに、いただいたPTA広報誌に目を通すと、その誌面の充実ぶりに驚かされる。だいたい高校のPTA広報誌というと、3〜4ページくらいの誌面で、PTA会長の言葉や行事予定などのつまらない内容が、何の面白さもない構成でダラダラと書かれていたりするが、秦高の「ひろはた」は、大学に合格した先輩達へのインタビューを記事にしていたり、多くのフルカラー写真とともに文化祭の様子がこと細かに掲載されていたりと、秦高愛が半端ない。
副校長先生はこれを「学校力」とおっしゃった。
「これはもう秦高の学校力だと思うのです。秦高生は、こんなに多くのOB達や地域の人々に愛され、見守られながら3年間を過ごすことになります。そのことを是非、中学生やその保護者の方に知っていただきたい。」
ICT利活用授業研究推進校として
県立高校改革の一環として、秦野高校はH28年度よりICT利活用授業研究推進校に指定された。現在、ICT利用環境を整えるための準備が着々と進められている。
たとえば、最新式の電子黒板や移動式の学習机を備えたICT用の教室の工事が今年9月に完成した。ここに、提携先のGoogleから提供されたタブレット88台がまもなく納入されるという。また、校内の至る所にWifiアクセスポイントも設置された。公立高校で、これくらいの大規模のICT環境を揃えた施設は全国で3校目とのこと。
「生徒のために、学校のために、できることは何でもしようというのが秦野高校の考え方です。ICTもそのひとつです。今の時代、ICTを活用しないなんてあり得ないことです。でも、タブレットでもICTでも、ただ導入すれば良いっていうものでもない。だから、ICT教育を先駆けて取り入れている千葉の袖ヶ浦高校をはじめとして、色々な全国の高校に勉強しに行ったり情報交換をしながら、ICTをどのように活用していくかを検討中です。」
と神戸校長はおっしゃった。昨年の12月に県教委から発表されたICT教育指定校だけに、まだ準備段階であるのは仕方ないことだろう。秦高の「生徒のためにできることは何でもする」というスタンスで進められているICT利活用事業。その全貌が明らかになるのはもう少し先になりそう。
昨年度大躍進した大学合格実績から一転、今年度はややブレーキ
今回の訪問で、私が神戸校長に伺いたかったのが大学合格実績についてだった。
秦高の過去3年間の現役生の大学合格実績について、次のようにまとめてみた。
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[tablehead title=’,H27,H26,H25′ class=”]
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14
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29
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15
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26
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34
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23
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209
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116[/tablecell]
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この表の通り、昨年度は確かに大躍進の年だったが、今年は早速ブレーキがかかった。昨年度の学校訪問の際、躍進の原因について校長に伺ったとき、「生徒の意識が以前よりだいぶ高まってきたことと、教職員の質が上がってきたこと」とのこたえが返ってきた(参照:大学進学実績で大躍進!変わりつつある秦野高校の教育改革の秘訣。)。
今年は単刀直入に、「今年、実績がしょっぱかった一番の原因は何だと考えられるか」という質問を校長先生にぶつけてみた。
「いろいろな要因が絡み合っていますが、一番の原因は何かと言われたら、彼らが1〜2年生のとき、進路指導方針が固まっておらずにフラフラしていたことです。3年生になってからだいぶテコ入れしたのですが、やはりそれでは遅かった。1年生からきちんとした進路指導、方針を固めていくシステム作りを強化しています。」
との返答が返ってきた。そんな返事では引き下がれない私は続けざまに、
「今年の実績は2年前とほとんど変わりません。つまり、穿った見方をすれば、去年の実績がたまたま良かっただけではと捉えることもできますがどう思われますか。」と、質問を投げかけてみた。
「確かに合格実績の数字は2年前と似通ってはいますが、やっていることや学校の雰囲気、生徒の意識は決して2年前までの秦高と同じではありません。秦高は2年前より確実に前進していますし、色々な取り組みによって生徒の意識もかなり向上しています。ただ、もっと我々教職員側の志を高める必要がありますね。このままでは秦高を受験してくる受験生にとって詐欺になります。結果を出さないといけませんね。」
とのこと。ちなみに、昨年度の高3生が秦高を受験した年というのは、新入試制度初年度にあたる。この年、秦野高校の実質受検倍率が1.08倍と、平均すると1.2〜1.3倍程度の同校としてはかなりの低倍率の入試であったことも付け加えておこう。
ただ、合格実績を入学してくる生徒の質に委ねていては、「生徒を伸ばす」という学校として当然の役割を否定してしまうことになる。神戸校長も、決して「生徒のせいだ」ということはおっしゃらなかった。当然かもしれないが、実績が悪い原因を生徒ではなく教職員側、システムの弱さにあると校長自ら素直に言い切る真摯な姿勢、そこから教員自ら改善策を色々と模索している姿勢が、現在の秦高の雰囲気の良さを最も物語っていると感じた。
学校という組織では、1つの取り組みに対して結果が出るまでにやはり3年はかかる。昨年度や今年度の実績だけ見て、秦高の取り組みについてどうこう言及するのは時期尚早なのかもしれない。
神戸校長の秦高改革の本当の真価が問われるのは、むしろ今年以降の実績だろう。
秦高を受験する中学生へのメッセージ
今は中学生対象の学校説明会もシーズン真っ盛りだ。うちの塾の中学生に話を聞いても、秦野高校の学校説明会に対する中学生の印象は良いものが多い。だいたいは「校長先生が熱い!」「校長が面白い」というような印象ばかりだが、中学生に対しても、神戸校長は熱いメッセージを発信し続けている。
「仮に2学期の成績が出て、たとえそれが良くないものだったとしても、3:5:2の秦野の場合、まだ3割しか決まっていません。残りの7割、つまり決まっていない要素の方がはるかに多い。だからまだまだ諦める時期ではないということを説明会でもお伝えしています。」
面接はどうか。秦野は100点満点ではなく90点満点と、少し変わった面接の採点の仕方をしている。
「この春の入試では、面接の平均点が100点満点に換算すると94.82点でした。うちは、受験生の良い部分を引き出すような、じっくりと話を聞くタイプの面接をしています。基本的には秦野に入りたい気持ちを全面に出してくれたら問題ありません。ただ、他の進学校のように、全員満点で差をつけないという面接はしていません。」
とのこと。さらに、面接についてこうも付け加えられた。
「この春の入試では、面接の最低点が100点満点で75点でしたが、これは秦野に来たいという気持ちが全然伝わらなかったということでしょう。うちの面接では、提出してもらった面接シートに書いてあることしか聞きません。なので、聞いてほしいことを面接シートにしっかりと書いておいてください。」だそうだ。
まとめ
「秦野のキーワードは『前のめり』です」
「秦野高校は調子に乗っている高校です」
「何のために勉強するか。それは視野を広げるためです。視野を広げると、面白い世界が見えてくるのです。」
「教育は、しくみしかけしつけ、そしてそそのかし」
「できない理由を考えるより、できる理由を考えよう」
と、今回もいつもの神戸語録満載だった秦高の学校訪問。
もう3年目なので、神戸校長に対してだいぶ免疫がついてきて驚かなくなってきたが、だんだんと校長の不思議な魅力のファンになってきている自分がいることにビックリする。たった1時間30分の訪問だったのにもかかわらず、帰るとき、ちょっと行きよりも元気になっていた。これも神戸校長の熱さが伝染したせいだろうか。
とにかく、ひたすら熱い校長だ。熱いだけでなく、行動力もある。「生徒のためならなんでもやる」と何度も繰り返す言葉に嘘はなく、神奈川県を飛び越えて日本各地の色々な高校と連携をしている。東日本大震災の被災地訪問だってやるし、自らが主催になって「箱根サミット」なる全国教員対象の宿泊セミナーだって企画してしまうし、オーストラリアのカジョリーナ高校と姉妹校提携だって早々に結んでしまう。
「まずは生徒の前に、先生が変わらないと。先生に活気がないと、生徒に活気が出るはずもありませんから。」
とおっしゃるように、校長の熱さは、周りの教職員の心を焚き付ける。そして校長の想いに触発された若い教職員が中心となって、生徒の指導にあたる。その想いが生徒たちに通じ生徒の志も高くなるという、校長を出発点とした熱い気持ちのスパイラルが起こっている。
秦高生が通う学習塾の先生がこうおっしゃっていた。
「今の秦高生は、結構本気で最初から国公立を目指すようになった。昔だと口先だけ国公立という生徒が多かったのに、今は随分目標を高く持ったやる気のある秦高生が増えた。」
もちろん合格実績など、まだまだ発展途上の点も多い。しかし、これだけやる気に満ちたエネルギーと、たくさんの「秦高愛」に満ちた高校は、神奈川の公立高校ではそうそうないのも確かだ。
<過去記事もどうぞ>