「神奈川県公立入試〜」シリーズ第4回目は、いよいよアレです。そうです、今年大波乱を巻き起こした理科についてです。
分析の前に少し前置きをします。慧真館では、公立入試の筆記試験直後に自己採点会をやるのですが、今年の自己採点会での生徒の表情が忘れられません。理科の自己採点中に、ある子は頭を抱え、ある子は今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、またある子は赤ペンを持つ手が震えてしまっている・・・など、それはもう地獄絵図のようでした。
ハッキリと言いますが、うちの塾生の理科は鍛えられまくっています。全国47都道府県の入試問題をほぼ全て網羅し、演習に演習を重ねています。その結果、何度となく繰り返した入試模試でも、「理科は唯一の安らぎの時間」とまで言う生徒もいるほど、理科に強い生徒が多いです。模試で満点もしくはそれに近い点数を取るのなんて、うちの塾では当たり前でした。
そんな理科に強い生徒達が、頭を抱えてしまうことになった今年の入試。さて、何が起こったのか、分析していきます。
天使の理科ちゃんが一転、悪魔の理科へ急変身!
まずは結論から。ご存知の通り、2014年度の理科の難易度は大幅に難化した。その変化は、得点分布のグラフから見ても如実に表れている。今回はよくよくグラフを見ていただきたいので、いつもより大きな画像にしてみました。
青のグラフが2014年度の得点分布グラフ。これを見ると一目瞭然。最頻値がなんと20点台!ちなみに断っておきますが、神奈川の入試は100点満点です。しかも、最頻値の20点台の割合は全体の26%を超えている。つまり、全受検生の4人に1人以上が、20点台という結果であった。2番目に割合が多い階級が30点台で全体のおよそ22%、3番目に多い階級がなんと10点台で全体のおよそ12%で、このベスト3を合わせると、なんと全体の60%を占める。言い換えると、全体の6割が40点以下の点数しかとれなかったということだ。
では2014年度までの理科はどうだったのか。もう一度グラフを見ていただきたい。
赤色のグラフが新入試制度初年度である2013年度の分布グラフで、黄緑色が旧入試制度の2012年度のもの。
この2つを見比べてみると、新入試制度に移行した2013年度の方が、2012年度よりも全体的に点数が伸びていることが分かる。
新入試制度になり、確かにこれまでよりも選択肢の問題が減り、グラフを書く問題や文章で記述する問題こそ増えたものの、昨年度の入試は恐ろしいほど簡単だった。昨年度大波乱を巻き起こした社会に比べると、受検生にとって理科はまるで“天使”のように見えただろう。
2013年度(赤色のグラフ)は、80点台と90点台の割合が約15%と同率で首位!これに100点満点の4.5%と合わせると、全体の35%の受検生が80点以上を取ったということになる。ところが一転、2014年度の入試になると、100点満点は0%、90点台は0.3%、80点台でも1.6%と、80点以上を取れた受検生が全体の2%にも満たない結果となった。
受検生の安らぎであった天使の理科ちゃんが悪魔へと急にキャラ変し、受検生に牙を剥いたのである。
暗記重視から過程重視へ
では、どのように難しくなったのか、その要因について述べてみたい。
これまでの神奈川県の理科は、どちらからというと暗記重視の問題が多かった。理科の用語や実験の結果を覚えていれば、ある程度の問題は解けた。それが一転、2014年度は暗記していれば解ける問題が極端に減り、実験の過程や理科の理論を問う問題が増えたのである。
理科の知識が豊富にあったとしても、実験の仮説を立てて検証するという思考ができなければ、手も足も出ない。逆に言うと、理科の知識が多少曖昧でも、問題文から実験の主旨を掴み、仮説を立てて検証できれば得点できる。
理科という学問から見ると、この思考法はまさに「王道」。それでも、この手の王道問題は全国的に見てもまだまだ数は少ない。全国の都道府県でも少しずつ過程重視の問題が増えているとは言え、2014年度の神奈川県ほどそれに偏った入試問題も珍しいと思う。
これからの入試理科の対策法
まさに理科の王道とも言うべき、過程重視の問題が増えた。理科の勉強方法を変えていかないと、これからも理科はあなたに牙を剥き続け、めちゃくちゃにやられ続けることだろう。
入試が難しくなると、「とにかく難しい問題を数多く解かないと」という心境になり、国私立の入試問題にも手を付けたくなってしまうが、それはナンセンスだ。国私立の入試問題も確かに難しいが、今回の神奈川県の入試問題の難しさと少し質が違う。
国私立の方は、学校によって傾向の違いはあるものの、かなり突っ込んだ知識を必要としたり、計算過程がやたらと難しかったりするが、神奈川の入試問題は上で述べたように、理論や過程を問う理科の「王道」であることによる難しさ。国私立とは難しさの種類が異なるというワケだ。
神奈川県の理科の入試対策法としては、基本に沿いながらも、理論や原因を常に意識しながら勉強することが大切。用語や実験結果を丸暗記するのではなく、「なぜそうなるか」ということをいつも考えるクセをつけることだ。
暗記重視ではなくなったとは言え、基本的な知識を身につけることは絶対に必要。いくら考える力があっても、それを支える基本的な知識がないと問題が解けないのは、今までもそしてこれからも同じ。
ただし、これまでのように、一問一答集的に語句を覚えるのではダメだ。おススメなのは、それの逆をすること。例えば「慣性の法則」という語句を答えられるようにするのではなく、「慣性の法則」の意味や説明を自分で答えられるように勉強すると、嫌でもその語句の本質的な意味を理解しながら暗記できるだろう。
原理原則を大切にしながら基本を全て身に付けた後は、全国の都道府県の入試問題を解いて実力を養おう。先ほど、まだこういう問題は全国的に見ても数少ないと言ったが、数こそ少ないだけで全く無いわけではない。少なくとも、パターンにハマりまくっている神奈川県の過去問を解いていくよりもよっぽど力がつくだろう。
うちの塾では毎年これを実践している。今年は問題が難しくなったことで、うちの塾でも理科の平均点は落ちたが、それでも慧真館の塾生の平均は約68点ほどで、県平均の38点を大きく上回っている。これも、全国の都道府県の入試問題を網羅することで、知識重視の問題だけでなく、過程重視の問題に数多く触れてきた結果だろう。
もう一つ重要なこと
理科の入試問題の難易度の変化を語る上で、もう一つ重要なお知らせがある。いや、正確に言うと、理科だけではなく、他の科目でも同じことが言える。それは、「言語能力がないと問題を解くことすら厳しい」と言うことだ。
長々と文章で書かれた実験過程や考察から、正確に実験の主旨を把握することができるかどうか。言い換えると、設問の読み取りがきちんとできるかどうかが、得点を取れるかどうかの鍵となる。すべての科目のベースとなる「言語能力」しいては「国語力」が、文系ではないはずの理科においても問われているのだ。
2014年度の神奈川県の入試では、全科目で言語能力重視の傾向を見せている。これからもこの傾向は続いていくだろう。
ということは、公立上位校を志望している人ならば、国語ができないと大きなハンディを背負うということと等しい。
とにかく国語力を鍛えよう。文章を正確に読み取る能力、自分の考えを論理的に記述できる力を鍛えよう。
それができると、全科目で圧倒的に有利になる。