ブラック部活よりも文武両道至上主義の方が酷である。

2017年9月14日

現在、定期テスト期間の真っ最中なのですが、今回も一部の部活動では、定期テスト1週間前でも部活が休みにならずに練習が行われるということが当然のようにありました。

ブラック部活の問題が話題になっていますが、塾講師の立場で中学生と日々接していると、ブラック部活の問題よりも、もっと深刻な問題が今の部活問題の根底にあるような気がしてなりません。

今回は、塾講師の立場から考える部活問題を本音で書いてみたいと思います。

定期テスト前も休みにならない部活動

ほとんどの中学校や高校では、定期テストの1週間前は部活が休みになるというルールがあります。放課後の時間を勉強に充てるためです。ところが、大きな大会やコンクールが定期テスト前後に控えていると、このルールもあっさりと破られ、テスト前であっても部活漬けの日々が続きます。

近隣中学では、定期テスト1週間前に部活の練習をするためには、保護者が「承諾書」にサインをし、提出しなければいけません。この手続きにより、一見すると「保護者の同意の上、生徒たちは自主的にテスト前でも練習をしている」という体裁を保つことができます。表向きは、勉強に忙しい場合は、承諾書を提出しなければ良いのですから。

しかし実際は、皆が試合やコンクールに向けて定期テスト前でも部活を優先して練習に明け暮れる中、自分だけが承諾書を提出しないなんてこと、できるわけがありません。運動部の団体競技や吹奏楽なんかは特にそうです。本来ならば、承諾書を提出するのも提出しないのも個人の自由であるはずなのに、「承諾書を提出しないなんてあり得ない」という、無言のうちの同調圧力がかかっているのです。

この便利な「承諾書」制度のおかげで、テスト1週間前でも平気で普段と同様に、生徒を部活漬けにすることができるのです。その結果、たとえ進路を決める大切な定期テスト前であろうが、成績不振で相当な時間をかけないといけないほどの勉強が苦手な子であろうが、そんな個々の事情はお構いなしに、テスト直前の土日であっても朝から晩まで部活に拘束されます。

部活は長時間練習するが、勉強は「短時間で成果を出せ」と求められる。

昔、「部活動が忙しすぎて勉強ができない」と、部活の顧問の先生に相談した塾生がいました。その時に先生から返ってきたアドバイスが、「勉強なんて短時間で効率的にやるものだ」というものだったそうです。ちなみにその顧問の部活動は、短時間で効率的どころか、夏休みはほぼ休み無しで1日中練習させていました。

この部活の顧問だけでなく、多くの学校の先生が似たようなことを言います。「勉強は、短時間でも効率的に毎日継続してやれば、部活と両立ができる」と。学校の先生だけでなく、多くの保護者も同じようなことを子どもに言ってきかせます。

でも、効率的に短時間で勉強し、それで成果を出すなんてことは、本当に優秀なトップ層にしかできません。もちろんそれが理想的なのですが、誰にでもできることではないのです。優秀でもないごく普通の子が勉強で成果を出そうとすると、非常に時間がかかります。部活動でも成果を出すにはある程度の時間を要するのと同様、勉強も決して皆が短時間でヒョヒョイとできるものではありません。

部活と勉強を両立させて当然というマッチョイズム

とかく中高生は、「部活と勉強の両立」がまるで絶対的な使命か何かのように、ほぼ全員に求められます。

「勉強に時間をかけられないから部活を辞めたい」などと先生に相談すれば、「部活すらできないヤツが勉強なんかできるわけがない」と説教されるのがオチです。先生だけでなく、どういうわけか「部活を辞めるなんて許しません」という保護者の人も多いのが現状です。ましてや「部活で忙しいから勉強をしない」と言うと、「何をバカなことを言っているだ、学生の本分は勉強だ」と叱られるのなんて目に見えています。

これはまさに、「両立くらいやれるだろう。弱音を吐くな。両立して当然なんだ」という昭和時代の悪しきマッチョイズムの他の何ものでもありません。

中高生は「部活と勉強のどちらも両立して当然」というプレッシャーのもと、朝の8時30分から夕方15時まで学校でみっちり授業を受けたあと、夜18時や19時まで毎日3〜4時間部活の練習をし、その後ろくに夕食を食べる時間もなく大急ぎで塾に行き、22時まで勉強をするという生活を強いられます。どんなブラック企業に勤めているお父さんも、育児と家事の両立に悩んでいるお母さんも顔負けのスケジュールです。

学校の先生や世間はこう言うかもしれません。「塾になんて行く必要がないじゃないか。学校の勉強だけで十分だ。部活の後に塾に行くから生活がしんどくなるんだ。」と。本当に、おっしゃる通りです。塾に行かなければ、少しは楽になるでしょう。

ヘトヘトになっても彼らが塾通いをやめない理由

ではどうして、ブラック企業の社員に匹敵するくらいの生活になっても、彼らは塾に通うのでしょう。それは、学校の授業だけで完結できる生徒があまりに少ないからです。

学校の授業についていけない生徒に対して、学校はその子が分かるまで徹底的にトコトン面倒を見ますか?毎日毎日授業の補習をしてくれますか?あるいは、難関校を目指している生徒に対して、教科書以上の知識や解法を教えてくれますか?難問の問題演習を授業で取り入れてくれますか?普通の公立高校を目指しているとしても、受験勉強がきちんとできるくらい、余裕をもって3年生の内容を早期に終わらせてくれますか?その後に過去問演習を十分授業で行いますか?

無理でしょう。やらないでしょう。だから、彼らは部活でヘトヘトになっても塾に通うのです。

学校がそこまで生徒個人個人の勉強の面倒を見れないのは重々承知していますし、それが学校の役割ではないことも分かっています。しかし、誰かが学校の代わりに、落ちこぼれた生徒に根気強く勉強を教え、難関校を目指す生徒に手ほどきをしてやる必要があるのです。それが、部活動の後の塾しかないのです。それなのに、「塾に通う必要がない」と言い切る方が無責任というものです。

もちろん中には塾なしで希望の進路に進んでいく生徒もいます。ハードな部活を3年間やり通し、塾に通うことなく難関校に合格する子だっているでしょう。しかしそんなのは本当に一握りの、大変優秀な生徒です。一握りの優秀な生徒だけに部活と勉強の両立が求められていれば良いのですが、優秀かそうでないか関係なく、中高生ほぼ全員に両立が求められいるのが現状です。

しかし、そういう優秀な生徒のみを例に出して、「塾に行かなくても、アイツは部長までやりきって、○○高校に合格した。だからお前もできるはずだ。」と先生は言います。その優秀な生徒の裏に必ず同じ数、いやその倍はいるはずの、部活のために進路が犠牲になった生徒については一言も語られません。

文武両道至上主義は酷

こういうことを言うとよく誤解されるのですが、私は部活動反対主義者ではありません。部活動を通して学ぶこともあるでしょうし、中高生の間に好きなことにとことん打ち込むのは精神的にも肉体的にもプラスになることが多いでしょう。

しかし、部活と勉強との両立こそ正義だと言わんばかりの行き過ぎた文武両道至上主義のもと、完全にキャパオーバーになってしまっている中高生が実に多いのです。あるいは、部活動のために明らかに勉強時間が削がれてしまい、学力不振に陥ってしまっている中高生も多数います。

でも彼らは決して「部活のせいで勉強ができなかった」とは言えません。そんなことを言うと、この行き過ぎた文武両立至上主義の社会では、「ただの言い訳だ。お前が勉強しなかったのが悪い。」と封殺されて終わりです。

本来、文武両道とはごく一部の人しか達成することのできない、非常に難しいことです。だからこそ学校などの校訓にもなる。簡単に成し遂げられることなら、わざわざ校訓として掲げません。普通の人なら、文武両道どころか、文もしくは武のどちらか一方を極めることすら困難なのですから。

ハッキリ言いましょう。そんなごく一部の人しか達成できない非常に難しいことを、半ば強制的に今の中高生はほぼ全員に求めらている現状こそがブラックなのです。

ブラック部活の問題よりも、文武両道至上主義を中高生全員に、暗黙のうちに求めている現状の方が、問題だと私は思っています。