ハロウィンの夜の非常にくだらないできごと

2015年11月1日

昨日の授業中の出来事。

いきなり塾の入口のドアがあき、顔面に覆面マスクを付け、「絶対合格」と書かれた太宰府天満宮のハチマキを巻いた、いかにも怪しげな男が凄い勢いで入ってきた。授業中だった私は覆面男の存在に気が付き、マジで警察を呼ぼうかと思ったが、よくよく見たら「絶対合格」のハチマキにも見覚えがあるし、覆面から覗かせる目にもどことなく見覚えがある。

そうだ、慧真館2期生の卒業生だ。今年21歳、大学3年生。

ひとりそんな怪しげな服装で何をしにきたかと思えば、何やら手にいっぱいスーパーの袋を下げて教室までズカズカと侵入し、中3生たちの前に私を押しのけるようにして立ち、「今日は何の日でしょう?」と塾生たちに問う。授業中に、目の前にいきなり怪しげな見知らぬ覆面の男が現れ、いきなり「何の日でしょう?」などと問われてスッカリ固まってしまった中3生。
「そうです。ハロウィンです。」と彼はひとりで勝手に答えながら、スーパーの袋からお菓子を取り出し、塾生一人ひとりに配り出す。
「オレもこの塾の卒業生だからね。ちょっとは皆とかかわり合いがあるんだから。それにしても授業がちょっとでも潰れてよかったね。」などとのたまいながら。

一通りお菓子を全員に配った彼は、2階で授業をやっている中2の教室まで覆面を付けたまま上がっていき、中3生の教室で繰り広げた一通りのことを中2生相手にもしたそうだ。

その後、目的を果たして満足した彼は、授業が終わる時間まで受付で大人しく待っていた。授業が終わり、中2生中3生たちが奇妙な目で彼を横目に見ながら帰っていくのを、彼は一人ひとりに「お疲れ〜」「勉強頑張ってね〜」などとのん気な言葉をかけながら見送る。そんな彼が珍しくてしょうがないのか、なかなか帰らずに残った中2生14歳3人と21歳大学生1人が、まるで昔からのお友達のようにワイワイとくだらない話で盛り上がっている。

「そうだ!先生たちにもプレゼントがあるんだ!」と取り出したのは、250mL入りのアサヒスーパードライの缶ビール2本。「350mLのヤツって意外に高いんだなーっと思ったら安いのがあったからそれにした!」と。随分と小ぶりの缶ビールを受け取りながら、嬉しいのか悲しいのか分からない気持ちになった。

「大学3年生なんだったら、そろそろ就職とか考えているのか」と聞くと、
「そうそう。オレね、福祉関係の仕事に就こうかと思っているんだけれど、1個も資格とか取ってねーの。」随分とのん気なものだ。
「友達とかはね、えーと何だっけ。インカレ?エンター?あれ何だっけ、先生?」
「もしかしてインターンのことか?」
「そうそれ!インターンがあるから遊べないとか言って、結構頑張ってるみたい。すごいよねー。ってか先生、インターンって何?」
・・・ますます悲しくなる。可哀想な彼に一通りインターンについて説明してやると、初めて知ったわーとか言いながら随分満足そうにしている。

「オレそんなことも知らないで就職大丈夫かなー?結構不安なんだよなー。」と言いつつ、まだ興味津々で彼をずっと見つめていた中2生男子14歳に、気さくに話しかけている。

中2生3人もようやく帰宅し、この男も「じゃあ、先生今度なんかおごってねー。ウザがられない程度に遊びにくるよ。」と言いながら嵐のように去っていった。

彼に言いたい。たとえ資格を一つも取っていなくても、インターンが何のことか知らなくても、お前の就職は絶対に上手くいく。

ハロウィンの日に、たった一人で怪しげな仮装をして恥ずかしげもなく昔通っていた塾にやってくるという、その度胸。塾生にハロウィンのお菓子を配ってやろう、ついでに先生たちにもビールを買ってやろう、でもお金がないから小さいのでいいかという、その心遣い。怪しげな出で立ちのせいで凍り付いている塾生たちを目の前にしても、動じることなく勝手にお菓子を一人ひとりに手渡す、そのハートの強さ。塾生たちの帰り際、男の子にも女の子にも、明るそうな子にもモジモジしている子にも、みんなに声をかけてやれる、その優しさ。14歳と普通に盛り上がることのできる、そのコミュニケーション能力。そして何より、ヤツがいるだけでその場の空気がパッと明るくなる、その存在感。

ちょっと頭は足りないのが玉に瑕だが、それを補えるくらいの色々な能力をヤツは持っている。昔からそうだった。成績は決して良いとは言えなかったが、彼が入塾してからはクラスの雰囲気がとても良くなった。皆が笑顔になった。

彼のような能力を持っている人はそう多くない。私自身にもそんな能力はない。頭さえ良かったら、是非うちの塾で働いてもらいたいのに。惜しい。惜しすぎる。