ひらめきは天からの贈り物ではない。ひらめきの正体と鍛え方。

2017年11月1日

ブログからの問い合わせメールで、「数学のテストでひらめかないんですが、どうすればいいですか」という質問がありました。

今までも数学の「ひらめき」については何度か記事にしてきましたが、今日は神奈川県の過去問から数学のひらめきについて考えてみたいと思います。

2010年神奈川県共通入試関数を取り上げる


今回取り上げるのはこの問題、2010年度神奈川県の共通入試の問3です。
参照:http://www.tokyo-np.co.jp/k-shiken/10/kgw/kgw/kgw-su/su2.html(東京新聞の過去問ページ)

神奈川県では毎年このような関数の問題が出題されていて、関数は数学の得点源ともいえる単元です。特にトップ校を目指している場合、関数はできれば満点を狙いたいところです。

最近の入試の関数の問題は、最後の(ウ)が難しくなってきていますが、上の2010年の問題の(ウ)は非常に簡単ですね。基本的な関数の面積比の問題で、これを普通に解くのであれば、点Fの座標を求めてから△AEFと△BCDの面積を求めて、それを最も簡単な整数比にするということくらい、誰でも思いつきます。この解法を誰も「ひらめき」とは呼びません。

ちなみにこの問題は、△AEFと△BCDの面積を求めなくても、もっというと点Fの座標を出さなくても解くことができます。ここからが別解です。

(別解)△BCDと△AEDの面積は等しいです。そうすると、△AEFと△BCDの面積比は、△AEFと△AEDの面積比と等しくなります。△ADFと△AEFは高さが等しいことから、面積比は底辺の比、つまりDF:EFと等しくなります。DF:EFの比は、△AFDと△BFEの相似比であり、AD:BEから相似比は求められますね。ADは6、BEは9なので、その比は2:3。つまり、△AFD:△AEFの面積比が2:3なので、△AEF:△AEDの面積比が3:5となり、これがそのまま△AEF:△BCDの面積比となります。よって、答えは3:5です。

こうなると、「へー、そういう解き方もあるんだー」と思うのと同時に、「そんな解き方俺にはひらめかないよ」と思う人が多くなるでしょう。

ひらめきの正体

「説明を聞けば分かるけど、そんなの自分で思いつかない。」「そんな解き方を思いつくのは先生だからだ。」など、数学を勉強していて誰でも一度は思ったことがあるでしょう。

では、ひらめきとは一体何なのでしょうか。もちろんひらめきは、天からの贈り物でも、偶然降って湧いたものでも、生まれながらの数学のセンスでもありません。

簡単に言えば、ひらめきは経験値の差です。過去に同じような問題を解いた経験のある人は、当然同じような解法の問題ならば解くことができるし、過去に一度も解いた経験がない人は、余程の天才でもない限り、その場で瞬時に解法を思いつくことは難しい。

入試数学は、何か新しい定理や斬新な解き方を披露する場ではありません。すでに誰かが大昔に発見した定理やすでに誰かが思いついた解法パターンを組み合わせて、問題を解きなさいと問われています。つまり、定理や解法のパターンをどれだけ頭の中にストックできているかという「ストック量」と、数あるストックの中から問題に合う適切な組み合わせを選び出せるかという「選定眼」が、ひらめくかひらめかないかを決定付けるのです。

ここに、受験数学の勉強法のヒントがあります。

ひらめきの鍛え方

では、質問に戻りましょう。「どうすればひらめくようになるのか」ですね。

簡単です。ストック量を増やし、選定眼を養いましょう。ひらめかないと言う人は、そのどちらか、もしくは両方ともが足りていないのです。

ストック量の増やし方

ストック量はいわゆる例題演習です。大学受験では一般的な「チャート式」は、まさに基本となる解法ストックの参考書です。大学受験ともなると、基本的な解法ストックだけでも結構な数になります。このストック量が足りていないと、当然ですが問題は解けません。これが受験数学が暗記科目だとも言われる所以です。

高校受験は大学受験ほど数は多くないものの、やはり解法ストックが十分でないと問題は解けません。例に挙げた関数や、苦手な人が多い空間図形などは、まさに「解法ストックがものを言う」問題です。

典型的なパターンの例題を多く解き、その解法を一つ一つ頭に入れることでストック量は増えていきます。ちなみにうちの塾は「新中学問題集」を数学のテキストに使っていますが、問題がチャート式のようにストック別になっていることと、そのストック量が公立入試レベルには最適であるという理由からです。

選定眼の養い方

もう一つ大切なのは、問題の選定眼です。これを鍛えるためには、実践の場を多く持つことです。

よくやってしまいがちなのは、ストックを定着させるための練習と、選定眼を鍛えるための練習を混合させることです。ストックを定着させるための類題演習は、選定眼を鍛えることにはなりません。どの解法パターンを利用するのかわからない問題を解くことでしか、選定眼を鍛えることはできません。

あとは、1つの問題が解けた後に、別解を考えてみることでも選定眼がかなり鍛えられます。普段から他の解き方はないか、今のアプローチの仕方が果たして最適だったのか、これを使ってみたらどうかということを考える癖をつけましょう。

まとめ

このように、ひらめきは天からの贈り物でもなんでもなく、ストック量を増やし、選定眼を養うことで鍛えることができます。

高校受験にも、チャート式のような質の高い解法パターンストック型の市販問題集があればいいんだけれど・・・。見つけたらブログで紹介します。