大学進学実績で大躍進!変わりつつある秦野高校の教育改革の秘訣。

さて今年も公立高校訪問の時期となりました。今年の訪問第1弾は、秦野高校です。
秦野高校は昨年度も訪問させていただき、ブログでも記事にしています(参照:進学校?部活校?秦野高校の現実)。2年連続の訪問の理由は、何といっても今年の秦野高校の大学進学実績の大躍進です。後ほど詳しく説明しますが、H27年度の大学進学実績において、MARCH合格者212人、国公立大合格者が29人と、H26年度の実績(MARCH116人、国公立大15人)を大きく上回った結果となりました。

秦野高校大躍進の秘密や、現在の秦野高校の現実について、神戸校長先生と久保寺副校長先生にお話を伺ってきました。

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平成28年度で創立90周年を迎える伝統校

秦野高校は平成28年度で創立90年を迎える伝統校。一昔前は、「秦野市では、秦高生というだけで、お金がなくても誰かがおごってくれる」という都市伝説もあったくらい、秦野高校は地域に深く根差し、地域の人々に支え続けられている。公立高校の中でも、これほど地元に根差した高校も今時珍しいのではないだろうか。それも、秦野高校の伝統の一部なのだろう。

しかし神戸校長は、「伝統は引き継ぐものではなく、創り出すものです。」と言う。「秦野高校は来年創立90周年を迎えますが、90周年はただ80周年の延長線上にあるものではありません。90周年の先、たとえば100周年を迎えたとき、どのような学校であるべきなのかを考え、そのあるべき姿から逆算した上で、90周年という伝統を創っていきます。」とのこと。

過去の延長上に未来はない。常に前を向いていなければいけない。今回の訪問で、神戸校長先生はこのことばを何度もおっしゃっていた。伝統を、古き良きものとして捉えて守り続けていくのではなく、10年後・20年後の新たな未来の伝統を創り出すためにやるべきことをやる。来年、秦野高校は、そのようなアグレッシブな創立90周年を迎えそうだ。

昨年度比約2倍の大学合格実績

さて、冒頭にも書いたように、今回の秦野高校訪問の目的は、昨年度比約2倍にまで躍進した大学合格実績についてだ。昨年度の記事にも書いたが、前任の時乗校長先生(現湘南高校校長)の頃より校内改革は既に始まっていた。「東大・京大・東工大・一橋大計3名以上を含み、国公立大学合格者30名以上」「早慶上智理科大合格者50名以上」「GMARCH合格者150名以上」などの明確な数値目標を掲げ、指導マニュアルを作成したり、夢を叶えるための「ドリカムノート」を使っての進路指導、高3生の5つの目標別コース選択など、これまでの3年間で進学に対する様々な取組みが行われていた。

それが今年、早々と実を結んだ結果となった。平成27年度3月、東大・京大・東工大・一橋大の合格者こそいなかったものの、国公立大学合格者数がH26年度の15名から29名と倍近くに跳ね上がった。「国公立大学合格者30名以上」という目標にこそ届かなかったものの、目標との差はあと1人だ。

国公立だけではない。早慶上智理科大の合格者数は、H26年度の23名からH27年度は34名まで増えた。目標の50名以上にはまだまだ手が届かないが、過去3年間の合格者数を追ってみると、16名(H25年度)→23名(H26年度)→34名(H27年度)と着実に数を伸ばしている。

最も顕著に結果が出たのがGMARCH。今年度のGMARCHの合格者数は212名で、目標の150名以上を軽々と超えてしまった。H26年度の116名から比べると、たった1年間で約100人も合格者を増やしている。ちなみに、これらの数字は全て現役合格のみで、過年度生はカウントしていない。

秦野高校と同じ偏差値レベルの海老名高校と今年の大学合格実績を比較してみても、その差は明らか。国公立大では、海老名が9名に対して秦野が29名、早慶上智理科大では、海老名が11名に対して秦野が34名、GMARCHでは、海老名が135名に対して秦野が212名。入学時の偏差値は同じような両校だが、卒業時の実績は秦野の一人勝ちである。

H27年に大躍進した裏側

神戸校長にずばり質問したのは、「H27年度の大学合格実績の大躍進の、一番の要因は何だと思いますか。」ということだ。「様々な取組みの中でいろんな種を蒔いてきましたが、その中でも効果があったと思われるのは、生徒の意識が以前よりだいぶ高まってきたことと、教職員の質が上がってきたことです。」と明確に答えてくださった。

難関大受検者数に裏付けされた意識の向上

「生徒の意識を向上させるために、色々な取組みをしています。たとえば、時期に応じて的確で細やかな受験指導を色々な形式で発信し、最後まで諦めないこと、受験は団体戦で乗り切ること、その時期での勉強の仕方などのメッセージを伝え続けています。また、生徒には視野を広げようと口酸っぱくして言っています。秦野高校には、独自の全国ネットワークがあります。毎年受験期になると、全国の高校の先生から秦高生に対してエールが送られてくる。それだけではありません。高校が主催しているOB会(広陵人材バンク)の講演会では、社会で活躍している20代30代の若手の秦高OBが話をしにきてくれて、これも非常に盛り上がる。これらの活動を通して、生徒の進学に対する意識がだんだんと向上してきました。」と神戸校長。

生徒の意識向上が、数字として最も顕著に現れているのが、難関大学受検者数だろう。H27年度は、合格者数だけではなく、実は受検者数も倍増している。国公立の受検者数がH26年度の62名に対してH27年度は96名、早慶上智理科大では、H26年度の89名に対してなんと235名がチャレンジしているのだ。(ちなみに、このような「受検者数」の資料を、外部の人間に快く見せてくれる高校は少ない。)

もちろん、チャレンジした生徒が全員合格するわけではないが、難関大学にチャレンジしようとする生徒が増えたということは、神戸校長のおっしゃるように、高い意識を持って勉強に励む生徒が増えた何よりもの証拠だろう。

教職員の質の向上

もう一つ、秦野高校の躍進の理由にあがったのが「教職員の質の向上」である。今年秦野高校に新しく着任された副校長先生が、「秦野高校の職員室はとにかく活気があります。比較的若手の先生が多いのですが、“チーム秦野”を合い言葉に、若手とベテランの先生が上手に連携を取り合い、組織的に非常に良く機能しています。」とおっしゃった。

生徒の学力向上のためのシステムづくりとして、教職員用の「進路指導マニュアル」というものを実に細かく作成したり、指導力向上のために授業研修や研究会を頻繁に実施されているようだ。ちなみに、今日の訪問時でも、副校長先生が途中で「これから他の教員の授業を見に行きますので」と席を立たれた。

他にも、秦野高校の先生方は、神戸校長が主催する全国の高校教職員対象の宿泊セミナーにも積極的に参加し、全国の他の高校の先生方と交流を深めることによって、教務に磨きをかけているという。

色々な高校を見学したが、ここまで教職員が組織的に動き、校内外の研修やセミナー等に積極的に参加し、若手ベテラン問わずオープンに意見を言い合えるような雰囲気の良い高校は珍しい。教職員同士の雰囲気の良さが、生徒にも波及し、学校全体の雰囲気を良くしているのだろう。

学力向上進学重点校は取りやめ!

今日の訪問で、一つ重大なニュースを聞いた。神戸校長先生が、「秦野高校は神奈川県の学力向上進学重点校のエントリーをやめました」とおっしゃったのだ。

「学力向上進学重点校にエントリーするには、特色検査を実施しなければいけないことになっています。秦野高校は、特色検査を実施するつもりはありません。うちの高校は、もともと頭がいい子に来て欲しいのではなくて、秦野高校に入ってきた子をしっかりと伸ばす学校にしたいのです。学力向上進学重点校をやめるからと言って、進学を諦めるわけでは決してありません。」とのこと。

神戸校長の信念の一つに、「顧客満足」がある。「顧客」とはなんと生徒や保護者のこと。公務員である先生が「顧客」ということばを使うことに多少の違和感を覚えるが、神戸校長はそれほど民間に近い発想をお持ちの珍しいタイプの校長先生だ。

「進学実績を良くするために、試験を難しくして、もともと頭のいい子を取るのは誰でもできる。しかし、高校は、入ってきた子をどれだけ伸ばすかが一番重要だと思んですよ。特色検査を導入することで、秦野高校を受けたくても受けられない中学生がでてくる可能性がある。それを何としても回避したい。そして、入ってきた子を一生懸命育てて、特色検査実施校の大学進学実績を追い抜いてやろうと思っているんです。そっちの方が面白いじゃないですか。」・・・たしかに面白いが、校長。

「小田原とか平塚江南とか厚木とかの高校を、実績で喰ってやろうと本気で考えていますよ。」ニコニコしながら凄いことをおっしゃる。

話は逸れたが、秦野高校は学力向上進学重点校から外れることになるだろう。だからと言って、校長先生のおっしゃるように、元の「部活校」に戻るわけではなさそうだ。学力向上進学重点校から外れた学校が、校長先生の言うように特色検査実施校に進学実績で勝ったとしたら・・・、確かに面白いことになりそう。

まとめ

今回、一年ぶりに秦野高校を訪問して感じたことは、「高校の雰囲気がとても明るくなった」ということだ。きっと、神戸校長がとびっきり明るいからだろうが、校長先生一人が空回りしているのではなく、校長先生を中心として全体にその明るさや雰囲気の良さが波及していっているように感じた。

秦野高校は確実に変わってきている。2時間程度の訪問だけでも、その変わり様や雰囲気の良さがこちらにヒシヒシと伝わる。部活校と揶揄された頃とは違い、部活も勉強も、まさに校長の理想とする「二兎を追う教育」が上手く機能し始めていると言えるだろう。

誰にとっても「伸びしろがある高校」。今の秦野高校はそう形容できるのかもしれない。

おまけ:神戸校長名言集

最後にオマケとして、今年も神戸校長名言集をやっちゃいます。

私はチャッカマンです。周りの人みんなの心に火をつけていきます。

私は太陽でもあります。周りの人に火をつけても、自分が燃え尽きることはありません。

企業努力が足りませんねー。それはいかんですねー。(秦野以外の地区の中学生や保護者に、秦野高校の良さが伝わっていないのではないかという質問に対しての神戸校長の返答)

秦野高校は、調子に乗っている学校です。私も、調子に乗っている校長です。

私たちの目の前にいるのは、生徒ではなく未来です。

秦野高校の教員は全員、秦野高校の財産です。神奈川県の財産です。日本の財産です。

面白いと感じたとき、人は自ら動くのです。