国語力について、身も蓋もない話をしようと思う

2015年10月14日

中3生の英語は長文読解の授業に入っています。特色検査を考えた場合、読んだ英文をうまく日本語で要約できる力が必要となるので、まずはその前段階として、長文の中でキーとなる英文を日本語訳に変換する訓練を積んでいます。

が、これがなかなかうまくいかない。ここ何週間か、うまくいかない原因をいろいろと探ってみたのですが、どうやら英文を日本語に変換する際の日本語、つまり国語力に問題がある生徒が多いことに気が付きました。英語の構文や単語は分かっている。英文ではなんとなくのレベルだけれど意味が分かっている。しかし、それをいざ日本語に変換するとき、言葉と言葉をどう繋いでいいのか分からないので、結果的に上手に日本語訳することができない。または、日本語訳をすることができてもその作業に非常に時間がかかってしまうのです。

奇跡の合格は国語力があってこそ

毎年色々な生徒を指導してきて言えることは、英語・数学・理科・社会の学力がたとえ遅れていようとも、国語の力さえあれば比較的短時間で他の科目も何とか取り戻せるということです。一方で、国語力が乏しい場合、国語以外の科目がたとえ現段階で大丈夫であっても、ある段階で伸び悩んでしまいます。結果的に、どれだけ他の科目でアドバンテージがあったとしても、国語力がある子に追い抜かれてしまうというケースを何度も見てきました。

基礎力ガタガタでも短期間でトップ校に合格した塾生の話

一例として、去年うちの塾を卒業し、小田原高校に合格した生徒の話をしましょう。彼女が入塾してきた中3の夏の段階では、英語・数学・理科・社会の基礎知識がガタガタで、とてもじゃないけれど小田原高校に合格できるレベルではありませんでした。しかし、無類の読書家で、国語の力だけは非常に優れていたのを見て、この子は受験までに絶対に間に合うと確信しました。案の定、国語以外の科目の基礎知識を大急ぎで復習し終えた後は、入試模試の点数も安定し、持ち前の国語力を発揮して特色検査も無難にこなし、無事小田原高校に合格していきました。

もしも、中3の夏の段階で、国語ではなくたとえば数学だけ突出してできるという状態であれば、彼女は小田原高校に間に合わなかった可能性が高いでしょう。夏の段階で基礎力ガタガタの彼女を、短期間で合格まで押し上げたのは、国語力があってこそのことです。

ビリギャルにも国語力があったと思われる

今年映画化もされて話題になった、学年ビリのギャルが一年間で偏差値を40上げて慶應大学に合格したビリギャルも、国語力があったからこそ成せた業だと思います。

皆様もご存知だとは思いますが、ビリギャルのモデルとなった小林さやかさんは、名門私立中高一貫校出身です。高校生のときはビリでギャルだったかもしれませんが、小学校のときは真面目に勉強し、偏差値60程度の中学を受験して見事合格しているのです。中学受験は、高校受験よりもシビアに国語力が問われます。国語力が乏しい小学生は、どう考えても偏差値60程度の私立中学に合格するのは至難の業です。

ビリギャルの話がデタラメであると言いたいわけではありません。きっと事実でしょう。しかし、偏差値40から慶応大学へ奇跡の合格を果たしたその土台には、名門私立中学校に合格できるレベルの国語力があった影響は非常に大きい。しっかりとした国語力があったからこそ、短期間で偏差値を押し上げることが可能だったわけです。

国語力は学力の全てである

なぜ国語力が他の科目よりも重要であるかは明確です。国語力とは言語力そのものだからです。英語でも数学でも理科でも社会でも、何にせよ人間は言語を介して考え、思考を組み立てます。国語力がある人は、思考の組み立ての際に言語を上手に操ることができます。一方で、国語力が乏しい人は、言語の不自由さが邪魔をして、思考を論理的に組み立てることができません。

冒頭に述べた、英文の日本語訳が良い例です。繰り返しますが、英語の構文の意味も単語の意味も分かっている。単語一語ずつであれば意味もきちんと言える。しかし、それを繋げて意味を持つ言語にすることが困難になってしまうのは、思考の組み立ての前に言語の組み立てがうまくいかないからです。

つまり、国語力は学力の全てであると結論付けることができるのです。国語力が乏しい人にとっては、非常に厳しい現実かもしれません。それこそ身も蓋もない話です。だからこそ、国語力を鍛えて欲しいのです。

国語力は短期間では伸びない

しかしながら、国語力は短期間で伸びる科目ではありません。正確に言うと、短期間で伸びないのは言語力です。たまに短期間で驚くほど国語の点数が伸びる生徒がいますが、それはもともとの言語力の土台はあったけれども、現代文等の解法テクニックを知らずに直感で解いていたがゆえに国語の点数が低かった場合です。国語の問題を解く国語力ではなく、言語を不自由なく操ることができる言語力を習得するには、極めて長い時間がかかります。

論理的思考力発達段階の前に、十分な読書体験を

国語の力とは、語彙力、論理的思考力、読書量に比例すると言われています。発達心理学では、そのうちの論理的思考力は、個人差がありますがだいたい小学4〜5年生くらいから発達するようです。また、それと同時に、母国語の吸収力はその段階から鈍化していきます。

つまり、論理的思考力の前段階、また母国語の吸収力が鈍化する前の小4生までに、いかに幅広いジャンルの読書経験から文章をインプットするか、聞く・話すといった言葉のトレーニングを積むかが言語力の土台を形成する鍵となります。もっとさかのぼると、言語をまだ耳からしか吸収できない段階の幼児の時に、どのような量と質の言葉を耳にしてきたかが、言語の力の土台になるとも言われているようです。

ここまでくると、もう本当に身も蓋もありませんね。しかし、繰り返しますが事実です。「国語力=母語力」との表現があるくらいです。

国語力を伸ばすために、中学生からできること

このように、母国語の吸収スピードが著しく鈍化する小学4〜5年生以降に国語力を鍛えようとすると、どうしても長期戦になります。しかし、だからといって国語力を諦めてはいけません。非常にゆっくりで、もしかしたら目に見えないスピードかもしれませんが、やはり力をかけた分だけ国語力は伸びていきます。

幅広いジャンルの読書

まずはやはり読書です。言葉の発達段階が一段落した中学生以降は、目から言葉を吸収することがやはり最も効率が良いでしょう。

ただ、闇雲に好きな本だけ読んでいれば良いというものではありません。中学生に取り組んで欲しいのは、大きく分けて次の3種類の読書です。まず一つは、ベストセラー作家や現代の流行作家の小説を読むこと。次に、世界や日本の名作を読むこと。そして3つ目は、岩波ジュニア新書シリーズなどのような説明的文章や論説・評論文の類いを読むこと。これら3つを好き嫌いせずに万遍なく読んでいくことで、偏ることなく語彙や表現力が蓄積していき、言語を上手に操れるようになっていくでしょう。

論理的思考力の鍛錬

もう一つは、論理的思考力の鍛錬です。先ほども述べたように、論理的思考力はむしろ成長してからの方が伸びていく力です。論理的思考力を身につけるための中学生向けの問題集を紹介します。

出口の小学国語レベル別問題集シリーズ0〜3・・・「小学国語」とありますが、中学受験用なので中学生にとってレベルが低すぎることはないと思います。むしろ、国語が苦手な人は、小学国語の論理からやり直した方が結果的に早道です。

国語読解[完全攻略]22の鉄則 (高校受験[必携]ハンドブック)・・・こちらは高校受験生用です。国語は苦手ではないけれど、今よりももっと力を伸ばしたい人におススメです。ただし、文字量が相当多いので、国語が苦手な人は見るだけで嫌になるでしょうからおススメできません。国語を教えていらっしゃる塾や学校の先生方、また子どもに国語を教えたい保護者の方にも良いと思います。

まとめ

受験を間近に控えた受験生が、短期間で国語の力を伸ばすのは至難の業です。国語の問題の解き方としての解法テクニックを教わっても、元々の言語力の土台がしっかりしていないとテクニックは生きてきません。国語という科目は、本来は「受験だから」と間近になって慌てて伸ばすものではないのです。また、だからと言って何もしないとどうにもならない。

本来国語は「学力の土台」として、受験者非受験者関係なく、5科目の中で日頃から最も時間を割いて、真剣に向き合っていく教科なのです。